ロシアの研究チームはヤグノブから膨大な資料を持ち帰った。原住民の口承文学や、タジキスタン人学者のコメント、非常に色彩豊かな写真の数々。こうした情報は歴史家や文化学者だけでなく、学問とは疎遠な人々にも興味深いものだ。モスクワのレフ・グミレフセンター所長で作家、民俗学者のパヴェル・ザリフリン氏がスプートニクに語った。
「ヤグノブ渓谷の輪郭を切り出すための探検だった。なぜそれが必要なのか。写真があればこそ、今やヤグノブについてはロシアやCIS諸国の何千、何万という人々が知っている。自分たちと並んで、このような、伝統的価値観を守り、ジーンズや現代的通信手段を持たずに暮らしている民族がいるのだ、ということを、人々は知った。この民族は、伝統的な生活を守ることで、なにやら不思議な、内面的なパワーを保っている。彼らが巨大な内的エネルギーを持っていることを、我々は目撃している」
ドゥシャンベからヤグノブまでは4時間の道のり。まずは車で移動、次に徒歩で山間の村々を目指す。集落は海抜3000m以上のところに位置している。この人跡稀な山中に、ヤグノブ人たち、またはソグド人たちは、8世紀の昔から住み続けている。まずはアラブ人の侵略から逃れて、次にはチンギスハンの軍隊を逃れて。しかしそんな彼らの隠遁生活も、ソビエト政権によって破られる。半世紀前、原住民は山から谷に引き降ろされ、綿花プランテーションに従事させられた。のち、この政策は誤りであったと認められ、山中への帰還が許された。ヤグノブには今500世帯が暮らし、全員が昔ながらの生活を送っている。金銭というものをもたず、農業を営み、文明の利器というものに対しては、独特の哲学をもっている。再びパヴェル・ザリフリン氏。
「私たちは色々なものを持っている。自動車、パソコン、アパート、暖房。しかし同時に、色々なものを失っている。大都市に暮らす人々には、力がない。刹那的な活動に右往左往し、疲れやすく、長く眠る。人生の目的というものを理解しない。それが諸々のトラウマ、自殺の淵源になっている。しかしヤグノブに来ると、まるで一昔前の、人間が自分自身でいられた世界に帰って来たように感じられる。ズボンの縫製も、パンの焼成も、獣を狩るのも土を耕すのも、全て自分でするのだ。彼らは独自の言語を持ち、文字というものをもたず、子孫に言語を口伝していった。彼らは長所にあふれた人々だ。中世の版画から抜け出たような、背中に一本筋の通った人々だ。こうした魅力あふれる彼らだから、世界中の人々がヤグノブを訪れ、まがいものでない感覚を体験するのだ」
ヤグノブ集落はユニークな社会現象である。それを見出したのはロシアの学者たちだった。それも、19世紀という早い時期に。であるから、150年も経ってモスクワの研究チームがタジキスタンを訪れたことは象徴的だ。研究チームはこの「青空ミュージアム」を広く宣伝し、グローバリゼーションの圧力からこのユニークな地域の独立自尊を守る考えだ。