浅羽教授:朴大統領は慰安婦像を撤去し「今度こそ決着させる」と本気を示せ

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今月2日、現政権下で初めて開催された日韓首脳会談を受けて、慰安婦問題に対する日韓の発言が活発化している。安倍晋三首相の側近である萩生田光一官房副長官は、ボールは韓国側にあるとして、どうすれば元慰安婦の心が安らぎ、両国の国民がある程度理解するのか、韓国側に具体的な案の提示を求める考えを示した。この背景には、慰安婦問題が幾度となく韓国の歴代政権によって蒸し返されてきたことがある。日韓関係に詳しい新潟県立大学大学院・国際地域学研究科の浅羽祐樹(あさば・ゆうき)教授に現状の分析と見通しを伺った。

浅羽教授「日本政府は、慰安婦問題は日韓請求権協定で『完全かつ最終的に解決された』という法的立場を一貫して堅持してきました。同時に、この問題は日韓関係において長年『しこり』になっていますし、紛争下における女性の名誉と尊厳がかかった普遍的な人権問題でもありますので、人道的観点からはそれなりに取り組んできたし、今後もそうしていくというのも事実です。これまで、ややもすれば歴史修正主義者に映っていた安倍首相でしたが、自ら問題の所在を認めて、『妥結を図るべきだ』と公言したことは画期的でした。

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この『妥結』こそ、今回の日韓首脳会談のポイントですし、この問題を解く鍵です。韓国側も『解決』ではなく『妥結』という同じワーディングで、必ずしも法的な責任の認定とそれに基づく国家賠償や補償ではないかたちでの決着に、韓国側もついに応じたということです。つまり、日本は日本で、すでに『解決』しているが新たに『妥結』に臨む反面、韓国は韓国で、『解決』そのものではなくても『妥結』で了とすると、双方落ち合ったわけです。」

スプートニク「しかし、妥結レベルでこの問題を終了させると、双方の世論が納得せず、同じことの繰り返しになるのでは。」

浅羽教授「まさにそこが焦点です。『妥結』『落としどころ』『均衡解』というのは、100パーセント自分の求める『正解』が出ないと不満をもつ人たちからは『裏切り』に映ります。

まず日本側について話すと、安倍首相は有利な政治的資源を有しています。安倍首相には『タカ派の政治家』というクレデンシャル(信任)があります。タカ派のリーダーがあえて、リベラルなポジションをとるということが重要です。元々リベラルな政治家がリベラルなことをやると、『あの人はそもそもそういうイデオロギーだからだよね』という目で見られます。タカ派の世論は当然、反発します。河野談話然り、村山談話然りで、日韓間で『妥結』につながらなかったどころか、日本国内でもナショナル・コンセンサスになりませんでした。2010年の管談話も総理談話の一つですが、今ではほとんど顧みられず『当時は民主党政権だったからだよね』となるわけです。しかし、タカ派の安倍首相が『歴史和解』に踏み出すとなると、誰も、個人的なイデオロギーによるものだとは考えません。『あの安倍首相でさえこの問題に取り組むのだから、それは日本の国益を合理的に判断した結果、やむをえない政策なのだな』と受け入れられやすいのです。

日韓共同世論調査をみると、歴史問題について、日本国民は、日本は過去、針路を誤ったし、謝る必要も認識しています。同時に、それなりに謝ったにもかかわらず、韓国民から全く何も謝っていないと思われている中で、『謝罪疲れ』『韓国疲れ』が広がっています。『何をやっても韓国には通じなかった』『これ以上繰り返してもムダだ』というわけです。こうした認識は政党支持や内閣支持を横断していますので、安倍首相はこの問題では一様に『タカ派』に分布している世論からの反応を先読みしつつ、今回、『改めて』踏み込むかどうか、を比較衡量しているわけです。

こうしたゲームの構図には前例がいくつかあります。有名なのが『Nixon in China』で、アメリカ外交史において中国との和解に舵を切ったのはタカ派のニクソン大統領でした。あのニクソンが中国と手打ちをするのなら、それは国益を勘案して戦略的に判断したのだな、とタカ派の世論も納得がいきやすいわけです。これをハト派の政治家がしたのなら、『中国の懐柔や脅しに屈したのではないか』と勘繰られるわけです。リベラルなポジションをタカ派がとったときの方がむしろ信頼できる(クレディブル)わけですよ。

韓国では『右派アベは信頼できない』とよく言われますし、朴槿恵大統領も『信頼外交(trust diplomacy)』の重要性を繰り返していますが、『右派アベだからこそ信頼できる』というロジックがあるのだというのが国際政治の冷徹な現実ですし、今、汲むべき歴史の教訓ですね。

韓国側に関して言えば、慰安婦問題に対する世論は硬直しています。国家賠償ではないかたちでの『妥結』に朴大統領が応じた場合、世論の反発は日本以上に厳しいでしょう。朴大統領は『解決』ではなく『妥結』に応じると言ってはいますが、日本側が要求しているのは『妥結』というより『最終決着(closure)』で、今度こそ本当に終わりになるのか、という疑いが強いんです。安倍首相も首脳会談後に、『将来世代に障害を残すことがあってはならない』と述べていますが、これは戦後70年談話の『子や孫の世代に謝罪を続ける宿命を負わせてはならない』と同じスタンスです。つまり朴大統領との間で決着をつけるが、2018年2月に韓国で政権が変わった後もずっと守られるという確かな保証を求めているわけです。それが予め示されない限り、日本としては踏み込めないし、決して踏み込まないという状況ですね。」

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スプートニク「何をもってして、問題を蒸し返さないことの確証と言えるでしょうか。日本は、韓国がどう行動すれば韓国を信じられると思いますか。」

浅羽教授「ソウルの日本大使館前に挺身隊対策協議会(挺対協)が設置した慰安婦少女像は、この問題のシンボルになっていますが、例えば、それを撤去することです。そもそも、外交に関するウィーン条約では、『公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責任』が韓国政府にはありますし、韓国の国内法的にも道路を勝手に使っているわけですから、そもそも不法ですので、真っ当な法治国家であればそもそも設置されていなかったはずです。しかし、ときに法に擬えられる『国民情緒』を考慮するが故に、これまで放置されてきました。

こうした反対世論が強いにもかかわらず韓国政府が慰安婦像を撤去するのであれば、『朴大統領は本気である』と日本側に確かなシグナルを送ることができます。韓国側が『慰安婦問題は妥結した』『歴史問題は私の政権では再論しない』といくら言葉で言っても、今まで『裏切られた』記憶がありますから、日本は安易に信じることができません。今度こそ『最終決着』をつけるためには、日本は日本で、韓国は韓国で、ハト派もタカ派もそれなりに納得して、将来それが覆されないという保証を互いに与えなければいけません。外交当局の間で、目下、その探り合いが熾烈に繰り広げられているのでしょう。」

聞き手:徳山あすか

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