それら資金はどこからくるのか?政治学者・東洋学者のウラジーミル・サジン氏が語った。
サジン氏によれば、今年半ばの時点でISは2兆ドルを超える資本を抱えており、今年の年間歳入は29億ドルに上っている。今年のはじめの時点でIS幹部は見込み利益(つまり歳入の歳出に対する超過分)を2億5000万ドルとする、20億ドルの予算を計上した。
このような膨大な資金がどこからこの疑似国家に流れ込むのか?ISを形成したイスラム系テロ組織は、当初から極めて多額の資金を運用していた。しかし、IS幹部らの出発資本は、基本的に、銀行、石油・ガス施設、リン酸塩生産・加工企業、セメント製造企業、硫酸およびリン酸製造企業を掌握することによって構成された。しかも、殺人や文化遺産の破壊をともなう、ISの代名詞ともいえる派手なパフォーマンスとは異なり、天然資源の採掘や輸送手段に関わる全ては、破壊をともなうことなく掌握された。経済インフラの稼動状態も、人員数も保存された。
サジン氏によれば、ISのほかの収入源に、穀物の販売がある。国連の推計では、ISが掌握しているイラクのニネヴィヤおよびサラーアルディンの両州には、イラクで最も肥沃な耕作地が広がっている。そこでは小麦の全国生産量の30%が生産され、その量はおよそ100万トンにのぼり、また大麦も全国生産量の40%が生産されているという。ISはこれら地域にある110万トンの総収納規模をほこる国営小麦保管庫も掌握している。シリアでも同じように国営穀物保管庫を掌握しているという。
掌握した石油、ガス、穀物企業の産品の密売によっても、ISは年間数百億ドルの利益を挙げている。販売が廉価で、通例、正規品の半額で行なわれるにも関わらず、である。
ISは強請りと徴税によって、イラクとシリアの掌握地から、年間3億6000万ドルの利益を挙げている。
他の国際犯罪組織との共同犯罪活動によってもISは莫大な資金を得ている。シリアの町カラムンにある様々な文化財(中には8000年の歴史を誇るものもある)だけに限っても、データによって数字は異なるが、芸術品の闇市場における一度の取引で、ISは2万から5万ドルを得ているとされる。恒常的な財源として人身拉致も数えられる。これまでにビジネスマン、地方政治家、聖職者、外国人らが拉致された。現在特に被害が集中しているのが、キリスト教徒の子どもその他、中東のキリスト教団体に属する人たちである。身代金でISは毎月およそ1000万ドルを得ているといわれる。
全世界にばら撒かれたイスラム系「慈善」団体や各種シンパ組織もISに資金を供与している。また、ISに共鳴するアラブ人大富豪のなかにも密かにISに資金を供与する者がいるという。
通例、こうした「慈善」団体や大富豪らは、古くから存在し、非常に秘密性の高い、「ハワラ」と呼ばれる送金システムを利用している。
世界文明を脅かすISという脅威に立ち向かうには、その財政構造を破壊しなければならない。密売を防止し、資金の流入するあらゆる経路を封鎖しなければならない。そのためには地域のみならず全世界の特務機関・治安機関が協議し、協力しなければならない、とサジン氏は語る。