地政学問題アカデミー副総裁コンスタンチン・シフコフ氏によれば、入札の撤回は米国の圧力を受けてのものである。
「米国や欧米はいま、ロシアと中国の友好関係に対して、事実上の冷戦状態におちいっている。こうした中で中国の技術を買うというのは、トルコにおいて、より性格にはNATOの南翼において、米国の一極支配が崩されるということを意味しないではいないというのは、自然なことだ。米国にとってそれは極めて望ましくなく、耐え難いことである。たとえ中国の技術を用いればトルコは独自のMDシステムを構築し、米国の盾、米国のMDなど必要としなくなり、この問題について全く落ち着いて米国から距離を保つことが出来たとしても、である。米国はこれを看過し得ない。米国はいまトルコの自分への結びつきを担保しようという政策をとっている。彼らはそれを、トルコによる中国の入札破棄をもって達成したのである」
専門家らは一方で、トルコ政府が入札破棄と合わせて発表した、トルコがMD施設構築に関する独自のプロジェクトに踏み切るという能力を、極めて低く評価している。
軍事専門家ウラジーミル・エフセーエフ氏によれば、トルコ政府は中国のサービスを拒絶して自らMDを構築できるほどの力を持っていない。
「トルコが自力でそうしたシステムを構築する能力をもっているとは私は信じない。弾道弾開発にしろ滞空・対ミサイル防衛装置開発にしろ、概して私はその能力を相当限られたものとして評価している。筆頭は中距離ミサイル。現在トルコはわずか500kmまでの飛距離をもつ弾道弾の開発に取り組んでいる。トルコの専門家らは必要な技能を持っていないし、十分大きな野望を持ってもいない。それが現実には実現されない一部の計画に反映されている。概してトルコはこれまで通り、米国の軍事技術および武器の供給に依存していくものと思われる。トルコがそうした依存を、たとえばある種の武器を中国のものに交換することによって脱却しようとしているのは、おおかた、より有利に米国の装備を買いたいと願うトルコの意向なのである。つまり、おそらく、これは取引の要素に過ぎない。なぜならトルコはNATOのメンバーだからだ。よって、こうした入札結果は、おそらく、明らかに、今一度トルコが武器購入に関する政治的決定十分に自立していないことの証左なのである」
自立の不足によって、トルコは軍事技術分野における中国との歩み寄りを拒否した。これは言うまでも無く中国にとって相当痛手となる地政学的損失だ。しかし、敗北ではない。トルコの入札によって中国は、西側に対し、グローバルな影響力をめぐる新たな戦線を、これまでその競争相手の威光とプレゼンスが打倒不可能であった分野にまで広げるということを理解させたのだ。