ロシア人東洋学者で有名な歴史家のアナトリー・コーシキン氏は、この路線が実現化した場合、日本は法律の上でも政治の上でも深刻な問題に突き当たりかねないとして、次のように語っている。
「右翼の、愛国的視点を持つ日本人歴史家らはかなり前からA級戦犯を裁いた東京裁判について、あたかも戦勝国らによる非合法的なものと主張してきた。こういった人々は法廷で死刑判決を受けた戦犯らの名誉回復まで口にする有様だ。
日本右翼のグル、中曽根元首相は昔、日本は侵略戦争ではなく、アジアの諸民族に独立をもたらした解放戦争を行っていたのだとのたまわっていた。こうしたイデオロギー的な志向は日本では姿を消したことはなかったが、今になってより具体的な形を取り始めてきた。日本は何十万人を殺害した南京大虐殺や十代の少女さえも日本兵への性的サービスに強制的に駆り出したことに対する責任を完全には認めていない。 」
コーシキン氏は、自民党の作る委員会の活動は第2次世界大戦時、また終戦後、日本に対してとられた決定、つまり東京裁判の判決を認めることを拒否するだろうと指摘している。日本は国連加盟時に全てのこの決定を認めることに同意した。コーシキン氏はラジオ「スプートニク」の記者の、国連は日本が東京裁判の判決の見直しの試みにどう反応するかという問いに対し、第2次大戦時に日本を相手に戦った諸国の反応によるだろうと回答した。だがいずれにせよ、日本はおそらく、今の政権が狙っている国連安保理常任理事国入りするチャンスを失うだろう。コーシキン氏は東京裁判の判決を見直す試みは日本で超右翼が力を強めていることの証拠であり、これは日本に何のよい結果ももたらさないとの見方をしめし、次のように語っている。
「この問題について日本で右翼的、リベラル派両方の学者、政治家、ジャーナリストらと話し合ったが、日本にはこの傾向に対して深刻な憂慮が存在している。東京裁判の結果を見直そうという試みは右派にとっては日本国民を安倍氏の提唱する、いわゆる『美しい国、日本』への回帰へと動員するために必要なものなのだ。
もし『美しい国、日本』の文言のもとにあるのが1930年代の日本だとすれば、これは軍事国家ではないか。だがこれを日本人に言えば、日本人は『軍国主義』という決め付けは外側から押し付けられたものであり、実際は日本は平和主義的国家だったのだ、ただこの戦争に外側から引き込まれただけなのだと答えるだろう。
また日本人は、20世紀の東アジアで起きたことへの責任は日本一国だけが引き受けるべきことではなく、米英ソ連、また中国までもが負わねばならないという。中国は日本の攻撃に長く抵抗を示したために戦争も長引いた。だから中国にも罪があるというのだ。
この論理に従うと今の日本人世代には、日本は悪くなかった、日本は先進国だったんだという確固たる信念を寄り合わせる必要がある。日本の歴史に対するこうした自虐的な考えは克服せねばならない。なぜならこれは外側から日本に対しておしつけられたものだからだ。日本国憲法でさえも押し付けられたものであり、これは再検討の必要性があるということになってしまう。」
「スプートニク」:安倍氏の主導する、自衛隊を完全な軍隊へ様変わりさせるための道を開く国防関連の法改革を米国は今、事実上支持した。だが、東京裁判の判決を見直そうという日本の決定を米国は支持するだろうか?
コーシキン氏:「安倍氏の米国公式訪問の前に米国の主導的新聞各社は安倍内閣のこの路線に批判を展開し、これは本質的には戦争責任を認めず、戦争の結果を認識していないことだと書きたてた。日本政府が歴史を全面的に書き換え、自国を平和主義国にしたて、日本帝国軍の出した多大な犠牲と、ある面ではヒトラーのドイツを上回るその残虐性に対する責任を逃れようという試みを米国が黙って見過ごすはずはないと思う。」