ニコライ・メトネル、アレクサンドル・グレチャニノフ、ジョゼフ・アクロンなど、忘れ去れたロシアの才能ある作曲家たちの作品だ。
それらと同じように、ソビエトロシアから亡命した多くの作曲家たちの作品が、長い間ロシアの文化、そしてコンサートプログラムから消し去られてしまった。
しかしこの度、日本とロシアの2人の音楽家の献身的な努力により、文化遺産の「失われていた層」が戻ってきた。2人の音楽家は聴衆に素晴らしい音楽作品との出会いによる真の喜びをプレゼントした。
谷本さんと、ブドニコフさんは、約10年前から一緒に演奏している。2人はロシアと日本で啓蒙的なコンサート活動を行っており、日本で数枚のCDも録音している。最新アルバムには、ジョゼフ・アクロンのヴァイオリン・ソナタ第2番が収録されている。これは、アクロンが亡命する4年前の1918年にペトログラードで作曲された非常に表現力豊かな作品だ。約100年前の作品だが、まるで今書かれたばかりであるかのような響きだ。
谷本さんは、「スプートニク」のインタビューに応じ、ブドニコフさんとの出会いや活動、作曲家や楽器、そして音楽について語ってくださった。
スプートニク:コンサートは谷本さんとブドニコフさんお2人によるプロジェクトですか?
谷本さん:ブドニコフさんと知り合う前から、メトネルとかグラズノフとかロシアの亡命者と言われる人たちの作品に関心を持っていました。ブドニコフさんと知り合ったのはもう10年前のことです。偶然日本でお目にかかりました。その時、彼も同じような作品を好んで演奏しているのを聞き、話が合って、一緒にアンサンブルをしようということになりました。最近インターネットで各国の国立図書館、あるいは大学の図書館の検索ができるようになったので、お互いに調べて、時々面白い作品を探しています。もう10年もやっていますので、お互いにどういう音楽をつくるのか、大分分かってきたというところです。
スプートニク:ロシアで何回目のコンサートですか?
谷本さん:ブドニコフさんとはもう10回はしていると思います。日本でも同じく10回くらいだと思います。
スプートニク:谷本さんの普段のレパートリーとお好きな作曲家は誰ですか?
谷本さん:多くの音楽家が同じことを言いますけれども、やはりバッハの作品が素晴らしいです。バッハは、6曲からなる無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティ-タを書いていますけれども、これは普段から練習して、時々演奏会で弾いたり、あるいは録音したりするように心がけています。あとはベートーベン、モーツァルトなど、やはりドイツの古い作曲家の作品は、やはり素晴らしい傑作だと思います。
スプートニク:谷村さんご自身について少し教えてください。
谷村さん:東京で生まれ、3歳からヴァイオリンをしています。ただこれはそれほど驚くことではなくて、皆さんプロフェッショナルになる人は、3歳や4歳から始めています。ただ僕は、文学などにも興味があり、音楽がものすごく好きというわけではなかったんです。ただいろんな芸術に触れるうちに、芸術がいかに人の心を、人の精神を的確に表し、また人の精神を探求する存在であるかということを少年時代から痛感していました。そういう少し変わった少年だったので、未だにちょっと変わっています。
スプートニク:ピアノの場合は違うかもしれませんが、ヴァイオリニストは、楽器を自分の恋人、あるいは子供のように扱っているようにも見えますが、ご自身のヴァイオリンについて教えてもらえますか?
谷口さん:とても素晴らし楽器です。ただ1790年にイタリアでつくられた古い楽器なので、日本は大変湿度が多い国であるため、年中楽器の状態には気を付け、修理や調整に出して、できるだけよく響くように心がけています。愛するというのとはちょっと違うかもしれませんが、よく響くようにいつも心がけています。
谷本さん:全く賛成です。僕も日々いろんなニュースに接しています。世界中でいろいろな悲惨な事件、あるいは事故、あるいは明らかに人間の罪が犯す戦争やテロ、こういうニュースに接するたびに今日演奏したアクロンであるとか、ロシアの有名な作曲家ショスタコーヴィチでありますとか、現代の作品ではシュニトケなど、彼らの作品を思い起こします。彼らが意識しているかしていないかは分かりませんが、人間の悲惨さ、あるいは人間の愚かさ、あるいは権力、あるいは政治、そういったものに対して非常に敏感に反応していて、非常に痛みを持って自分の作品を書いていたと思います。
スプートニク:谷本さんは、音楽、芸術が人間の心をより優しく、よりきれいにすることができると思われますか?
谷本さん:音楽は本来そういう存在だと信じています。ですから人の魂を救うというのは大げさですが、救う以前に、人の魂に接する、音楽、楽器を通して人の心に接する、そういった経験を重ねたいと思っています。