ひとつのことが確実に言える。国連事務総長のピョンヤン訪問は、朝鮮半島情勢の改善につながるだけでなく、パン氏自身の利益にもなるのである。そう語るのはロシア科学アカデミー経済研究所朝鮮プログラム代表ゲオルギイ・トロラヤ氏だ。
「北朝鮮訪問というアイデアは、今の韓国のパク・クネ大統領の任期が終わるとき、後任に立候補してみるという、パン・ギムン氏の意向とかかわっている。今は訪問にはちょうどよい時期だ。いま北朝鮮は外交的孤立からの脱却を強く求めている。訪問が実現すれば、北朝鮮指導部は、国際社会最大の権威者であり、しかも朝鮮人であるパン・ギムン氏に、自らの立場を伝えることができる。また、パン氏の事務総長任期は切れかかっており、もうこのようなチャンスはないだろう、ということも重要だ。それにいま北朝鮮は、対話を再開させ、国際社会に何らかの重要な提案を行う覚悟を、かなり強く固めている。金正恩氏はパン・ギムン氏との会談に用意がある。パン氏の訪朝が実現すると信じる大きな理由がこれだ。しかし、外交上の微妙なしきたり以外にも、訪朝を危ぶませるファクターは色々とある」
先日、北朝鮮非核化をめざす6者協議(この数年間は断絶している)で米国代表を務める、米国の北朝鮮担当代表ソン・キム氏は、米国政府は北朝鮮との和解談義などには関心がない、と述べた。周知のように、米国は、北朝鮮がミサイルおよび核兵器開発に関する作業を全面停止することを、交渉再開の条件としている。一方の北朝鮮は、米国政府が確実な安全保障を約束しない限りは、ミサイルおよび核兵器開発に関する作業は停止しない、と主張している。米国政府としては、そのような約束は与えたくない。こうして袋小路が出来上がる。それを突破する試みを、パン・ギムン氏もとっている。氏はこれまで、朝鮮半島の平和と安定の名において北朝鮮を国際社会との協力に促すために、国連事務総長として粉骨砕身する、と何度も公言している。しかし北朝鮮との交渉が必要だということを米国に納得させるために事務総長に残された時間は、もうわずかだ。