著名な日本学者でモスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は先日TPPに加盟した日本にとってのこのプロジェクトの意味を次のように語っている。
「日本はTPPをも含めた複数の経済統合フォーマットに平行した形で参加する路線をとるようになって久しい。ここには何の矛盾もない。なぜならこうしたフォーマットのアルゴリズムは別のフォーマットの参加を制限するものではないからだ。言葉を変えれば日本はタリフの自由化を厳しく求めるTPPに参加しながら、そうした厳しい要求を突きつけないほかのフォーマットにも参加できることになる。複数の経済統合にパラレルに参加することで日本は単一の統合に経済を結びつけた結果起きる挑戦、危険性、リスクを最小化しようとしているのだ。」
「スプートニク」:FTAに参加することで日本はどういったプラスがあるとふんでいるのか?
今議題に上がっているのは頭の痛い問題で、特に中国にとって大変なのだが銀行セクター、金融サービスの自由化や知的財産権の擁護という問題だ。この合意は万人に利益をもたらすもので、経済成長の新たな源流を見つけようとしている中国にも日本韓国との貿易関係はとても重要だ。
また中国はこの合意にある意味で政治的成分を、つまりTPPに何らか対抗するものを見ている。かなり複雑な地政学的ゲームが進行しており、そこから各国は一定の配当を受け取ることを期待しているが、全体としおてはゲームは参加者全員に勝ちを約束している。また米国でさえFTAに意義を示していないのは、中国画このフォーマットに参加することでこれを国際貿易経済関係に取り込み、そうした観点から中国を制御し、責任感のある資本家にしたてようとの目算があるからだ。また同時にこの方法は日本をそのパートナーである中国、韓国と仲良くさせ、北東アジア地域の一定の安定を確保することになる。」
「スプートニク」:中国は生活費や労働価格のアップで世界の工場の地位から次第に遠のきつつあり、生産拠点が東南アジアにシフトし始めているが、この状況にFTAプロジェクトはどういう影響を及ぼしうるか?
ストレリツォフ氏:「私自身はこの傾向の規模を拡大評価はしないだろう。中国が『世界の工場』でなくなる時まではまだ十分時間がある。というか、そんな事態にはなるまい。なぜなら中国は最大の生産大国にとどまり、世界におけるそのGDPの割合は伸び続けるだろうからだ。確かに現在、投資は東南アジアへと移されているものの、それでも中国は世界最大の投資先であり続けており、この傾向はまだ長く続くと思う。第2に中国にとっても他の諸国にとってもFTA合意がTPPに続いて最大規模のものであるというそのイメージ的地政学的効果は何よりも大事だ。日中韓間の貿易レベルは数千億ドルに上る。3国にとって非常に重要なのは地域内の貿易であり、その重要度はその他の地域とは全く逆に拡大している。このためFTA合意は世界の貿易関係システムにとっては象徴的なものとなるはずだ。世界貿易の地域化やこうした限定的フォーマットの形成という傾向はこれから先も続くと思う。そしてFTA合意はこうした傾向の最重要なものに数えられるようになるだろう。だが繰り返すが、だからといって合意がこれらの国にとって他の合意に置き換わるということでは全くない。」