最高裁は立法府での議論を促した形だが、自民党の野田聖子・前総務会長は「党内で議論させてもらえない。党内で反対する側は『家族の絆が壊れる』と合理的に議論できないものをぶつけてくるので議論ができない。」と述べている。つまり姓とは反対派にとって家族の絆の象徴なのである。しかしこれでは、なぜ夫婦同姓の日本で離婚が増えているかは説明できない。2016年元旦に厚労省が発表した人口動態統計によれば、2015年の離婚件数は推定で22万5000組と、前年より増加し、2分20秒に一組が離婚している計算になる。
ロシアの例をご紹介しよう。実はロシアでは、姓も名前も父称も自分の意思で変更できる。14歳以上に達していれば、希望するタイミングで申請することができる。つまり改姓と結婚とは法律上、何の関係もないのだ。申請に必要なものは申請書と1600ルーブル(現在のレートで約2500円)の手数料、パスポートや出生証明書などの書類である。父称とは父親の名前から作るミドル・ネームのようなものだ。例えばプーチン大統領のフルネーム(名字・名前・父称)はプーチン・ヴラジーミル・ヴラジーミロヴィチとなる。つまりプーチン大統領の父親もヴラジーミルという名前であることがわかる。
もちろんロシア人でもいろいろな人がいる。若くても伝統にのっとり、結婚と同時に夫の姓を名乗る場合も多い。モスクワの大学院生、23歳のマルガリータさんは最近結婚して、フローロワという姓から、ダローシキナに改姓した。この姓はダローガ(ロシア語で道路という意味)という単語に由来するものである。マルガリータさんは「フローロワという姓は響きも綺麗で気に入っていたし、ダローシキナは正直、道路をイメージするので好きじゃありませんが、それでも夫の姓に変えることに決めました。これは私自身の選択です。日本の制度は夫婦どちらかに改姓を強要するもので、選択の自由がないという点でよくありません。どんな姓を名乗りたいかは自分で決めることだと思います。」と述べている。また、年金生活者のナタリヤさんは40年前、成人したことをきっかけに、母方の祖母の姓を名乗ることにした。その後結婚したが、姓は現在に至るまでそのままだ。姓の変更は彼女にとって、成人したことの証明のようなものだった。起業や転職、転居など人生の大きな節目で心機一転し、新しい名前にあやかって強運や良縁を手に入れたいと願う人々が、改姓・改名をするというわけだ。
このようにロシアの人々の姓、名前全体に対するアプローチは非常に多様であり、世代や性別によって縛られるものでもない。また、姓と家族の絆を同じ土俵で考えることもない。