モスクワ国際関係大学国際問題研究所の上級 学術専門家のアンドレイ・イワノフ氏は、次のような見解を表している。
蔡英文主席の勝利は、台湾の外交政策を大きく変化させるための前提条件をつくり出す。敗北した「国民党」は、非常に賢明な政策を行っていた。同党は、中国本土との経済協力を積極的に発展させ、独立のことはおくびにも出さなかった。これが、台湾海峡をはさむ中台関係で現状を維持し、香港をモデルとした台湾と中国の統一に関する中国からの呼びかけに気付かないふりをすることを「国民党」に可能とさせていた。しかし、蔡英文主席は、中国との接近に反対する立場を表明している。加えて民進党は、台湾が独立を公式に宣言することを志向している。
台湾総統選挙で中国との接近に反対する政党が勝利したことで、米国の中国封じ込め政策で台湾を利用するという誘惑が生まれることに疑いはないだろう。なお、この対中ゲームでは、日本が重要な役割を担う可能性がある。日本はすでに経済協力の助けを借りて、ベトナム、フィリピン、インドを対中戦線に引き込んでいる。このシナリオで進展した場合、ウクライナと同じようなことが起こる恐れがある。
なお中華帝国の一部だった台湾と、ロシア帝国ならびにソ連の一部だったウクライナでは、独立を求める人と、中国またロシアそれぞれとの関係維持を求める人が、ほぼ半分に分かれている。欧米は、ロシアはウクライナなしには偉大な大国として生まれ変わることはできないと考え、ウクライナをロシアの影響下から引き離すためにたくさんのことを行った。なおこれは、幻想であることが分かった。しかし、欧米が違法な手段で政権を奪い取ることを支持したことなど、欧米とウクライナの陰謀は、悲惨な結果をもたらした。ウクライナは事実上、崩壊してしまったのだ。ウクライナからクリミアが離れ、事実上、ドンバスも抜けた。ウクライナ経済は、ロシアとの関係が上手くいかなかったことで破綻の状態にある。
米国とその同盟国が台湾の分離独立機運を支持し、台湾を中国から「引き抜く」という試みを実施した場合、さらに悲劇的なことが起こりかねない。少なくとも、台湾経済が打ちのめされるだろう。そして残念ながら、台湾を奪い取ろうとする試みを、中国が軍事力で阻止するという非常に黙示録的なシナリオも除外できない。
なおウクライナの場合、ロシアはその戦争に引き込まれることを回避することができた。しかし中国がこのような「芸当」をやってみせることができるかは、分からない。