必須医薬品リストとは、ロシア政府が「生活・人命にとって欠かすことができず、特に重要である」と認めた医薬品を列挙したものだ。このリストにどのような医薬品を入れるかについては、毎年ロシア連邦保険省の専門家たちによって委員会が開かれ、厳しく審査される。チェック項目は医薬品の効果や安全性、薬剤経済性、ロシアで生産されているか否か等、多岐にわたっている。
日本と比べると、ロシアの保険体制は複雑だ。日本の場合は新しい薬が認可されると、全国どこの病院でも、一定の価格で薬剤を購入できる。ロシアの場合は国土が広いことに加え、連邦政府制であるために地方政府が自治権をもっている。医療費は各州ごとにまかされているため、薬を患者に届けていく過程は複雑になる。薬剤がロシアで認可されると、メーカー側は自由に値段を決めて販売してよい。ただし患者が購入する際は100パーセント自己負担になる。特に新しい薬剤はいわゆる「特許費」のために、ジェネリック医薬品と比べると高価だ。すると、ロシア人の大半は購入できない。日本では3割負担ですむのに比べて、いくら新薬が安全性・効果に優れているとしても、10割負担は重い。しかし政府の必須医薬品リストに入れば、話は別だ。低所得者層、ハンディキャップをもつ人、退役軍人など、国費で医療サービスを受けている人々が、無料でリスト内の薬を使用できるようになる。
政府が作る必須医薬品リストに入ったら、次は地方政府の償還リストに載ることが大事だ。これは州ごとに独自に存在し、モスクワ州はモスクワ州の償還リストを持っている。ここに掲載されれば薬は公費補助の対象となり、住民が公定価格で購入することができるようになる。政府の必須医薬品リストに新しい薬が加わると、各地方政府が「自分たちのリストにも入れようか」と考えるため、時間とともに患者にいきわたりやすくなるというわけだ。真砂野氏は次のように述べている。
真砂野氏「薬のリスト入りを審議する連邦保険省の会議の模様はインターネットで中継されており、私も見守っていました。結果が出たときは皆で抱き合って喜びました。先発メーカーはみんな、自社の薬をリストに載せることを夢見ていますから。それこそが、薬が患者様に近づく登竜門なのです。患者様に届けることができないと、いくら良い薬であっても何の貢献にもなりません。中央政府のリストに入ったことで、地方政府に対しても、リストに入れてくれるよう交渉することができます。公定価格になり手に入りやすくなれば、ようやく本当に薬が役に立つことができます。」
なお、今年度の中央政府の必須医薬品リストは、3月1日から運用が開始される。