クラツキ氏は中国指導部の声明や公的刊行物の断片からいくつかの傍証を引いている。氏の考えでは、中国の核ドクトリンの展開はちょうど今、戦略兵器部門の米国の行動に対するリアクションとして行われている。かつて中国の核弾頭は運搬手段と別に保管され、脅威の高まった期間のみ装着されていた。中国の戦略核戦力は今や「警告射撃」つまり敵方弾道弾発射警告システムに探知された攻撃に対する応射への常時臨戦態勢をとることになった。
技術部門における中国の行動を見れば、この結論は極めて妥当なものに見える。たとえば、もし潜水艦が軍事哨戒を行なわないのであれば、これまで中国がそうしていたように、海洋戦略核戦力に膨大な費用をかける意味はないのである。さらに、中国が最初のミサイル攻撃警戒電波基地を建設すること、ミサイル発射を検知できる衛星に取り組んでいることも、よく文書に裏付けられている。
しかし問題となるのは、動機がどこにあるのかということと、しかるべき決定が採択される期限だ。ドクトリン変更のための技術的前提がそろったのはせいぜい2010年、中国が第一に相当多数の完成された固体燃料大陸間弾道弾を製造でき、第二に、それに分離可能な弾道部を搭載する技術を開発し、MD網を突破できる誘導超音速弾道部を開発することにおいて、成功を収めた時点である。加えて、このときまでに無線技術部門でも大きな成果が上がっている。
核戦力開発部門における中国の現在のあらゆる成功は数十年にわたる緊張感のある作業の結果である。多くの計画が1990年代初頭ないし1980年代末にはじまり、いま中国の戦略核戦力に起きている量的・質的変化は当時から計画されていたものだったのだ。
私見では、1960-2000年代の中国の核ドクトリンの特性は、核安保に対する何らかのユニークな中国的アプローチの結果ではない。これらアプローチは手元にあるリソースに対する中国指導部の極めて思慮に富み合理的なアプローチ、存在する脅威に対する正しい評価を反映しているに過ぎない。通常兵器で米国と競い合おうとするより、米国との均衡を達成する対価のほうが安く、得られる戦略的利益は莫大である。次なる十年、中国が、数量において超大国に迫り、技術的にやや劣る程度で、高い臨戦態勢にある戦略核戦力を手にする見込みは、大いにある。