石油分解生物は古くから研究されてきたが、ほとんどの研究は、暖かい気候に住んでいる微生物に焦点を当てていた。そうしたものは種類が多いのであるが、寒冷地では大幅に種類が少なく、またその代謝と繁殖速度は鈍化している。モスクワ大の生物学者らはこのギャップを克服するべく、北極用の石油分解微生物コロニーを育てた。
研究では、アクティブな、つまり石油分解能のある細菌が北の海から集められた。それを実験室で培養し、最も有望な株を同定した。これらが、海面上、海岸線、船舶や石油プラットフォーム上の石油汚染の除去を行う新しいバイオ製品の基礎となった。
「今、私たちの専門分野で最も重要な方面の一つが、北極圏内での細菌の適用可能性の問題だ。北極は、まだ人間の影響を強く受けていない、ほぼそのまま保存されている気候条件を有する、特異な領域だ。しかし、今、将来性ある石油採掘や航路開拓の関係で、北極の積極的な開発が進んでいる。よって、石油流出の危険性もある。私たちの課題は、寒冷な気候を持つ地域で石油とその成分を酸化することができる細菌を同定することだった。このような細菌を生態系から得、実験室に移して数を大幅に増やし、生物学的な製品を作って、汚染された場所に持ち込み、石油を除去させることができる。細菌は自分自身でもそれを行うのではあるが、繁殖スピードは寒冷な気候に抑制されており、補助が必要だ。我々は、低温耐性菌を含む製品を作り、食品基質として石油を吸収し、汚染から二酸化炭素、水、および細菌自体のバイオマスを作り出すその能力を利用する。これで我々は数十、数百倍、石油の分解を加速できる」
北極ではまだ大きな石油流出事故は起きていない。しかし、多くの国が北極海航路の使用に強い関心を示していることや、ロシアによる北極圏の陸棚開発を考えると、この地域の環境安全保障に関する疑問が生じる。石油及び石油製品を分解する細菌の使用というのが、仮に汚染が生じた場合、それに対処するための最も効果的な技術の一つだ。モスクワ大学の実験室における研究では、わずか数十キロのバイオ製品で1ヘクタールの石油汚染の86%までを処理することができた。