実は、一定の沈黙の後にこのような事件がこのタイミングで起こったのは、ある程度予想できたことだった。サミット(主要国首脳会議)が伊勢志摩で、5月26日・27日の日程で行われていたからだ。ヤクザの世界に詳しい鈴木啓之氏(シロアムキリスト教会牧師)は、これは起こるべくして起こったと見ている。
鈴木氏「サミットの間、もし山口組か神戸山口組が動けば、その組織は国策として壊滅状態に追い込まれる、という話が出ていました。ですからサミットが終わるまでは、事件は起きないだろう、ということはわかっていました。空白期間の間、つまりサミット終了時点までに、互いの組織が、互いにターゲットとする人物や場所を設定していたと思います。ですからこれは起こるべくして起こった事件です。」
サミットは国際的なイベントであり、しかも日本・伊勢志摩が舞台となって世界に発信しなければならない大切な時期に、抗争事件のために世の中が騒ぐことはヤクザにとっても好ましくないのだという。諸外国のリーダーや海外メディアに対して、日本という国が物騒なところだということが伝わってしまうと、それは日本にとってマイナスになる。だからこそ、両者の抗争には歯止めが効いていたのだ。
昔、ヤクザが任侠と呼ばれていた頃、つまり今のような暴力団形態ではなかった時代には、アウトローの世界から大手ゼネコンのトップや各種興業のトップに転身する人が多かった。
鈴木氏「日本の国の中の『違った世界』が、日本の治安を守るため微妙なバランスを保っていた時代がずいぶん長く続いたのです。そういった点から考えれば、ヤクザの世界でも、色々な形での歯止め、例えば最大限の申し合わせなどが行われることは、特別なことだとは思いません。」
高木忠幹部が射殺された後、神戸山口組の方は沈黙を守っている。山本容疑者が出頭した三日後に神戸山口組の定例会が行われ、通常以上に警備・警戒がなされたが、何事もなく終わった。果たして神戸山口組は、このまま復讐することなしに沈黙を貫くのか、それとも新たな抗争が始まってしまうのか。