「スポンサー企業のロシア人選手に対する立場はかなり揺るぎなく、予見できるものだ。ドーピングスキャンダルがどういう展開を見せようと、企業はスポーツ選手らが自己の達成を目指して長い道のりを辿ってきたことをよく理解している。
それに選手らはオリンピックのほかにも数え切れないほど多くの競技に参加してきている。そこで達成された勝利が全てドーピングによるものだったと非難するのは根拠に欠ける話だ。試合での勝利は選手らの成長を見守ってきたおびただしい数のファンたちの目の前で遂げられてきたものであり、このファンたちこそスポンサー企業のターゲットオーディエンスなのだ。
スポンサー企業らは、マリア・シャラポヴァ選手はリオに行こうが行くまいが、どんな場合でも彼女は最高のスポーツのスターであり続けると分かっている。彼女は世界ランキング1位を何度も獲得してきた。これこそが重要なのだ。今回の彼女に対するドーピングクレームだって真偽のほどは怪しい。」
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)がその使用を禁じ、これによってシャラポヴァ選手が非難を受けた問題のメルドニウムだが、実は使用禁止の決定は広範な臨床結果に基づいたものではない。またメルドニウムがドーピングであることを科学的に証明した発表もまた、そう多く出されていない。
リチャード・マクラーレン氏率いるWADAの第3者調査委員会が作成した、2014年のソチ冬季五輪でも大規模なドーピング隠蔽工作があったとするレポートも、具体的な証拠のない濃い霧に包まれている。ドーピング検査容器の製造メーカーであるスウェーデンの「ベルリンガー・スペシャルAG」社は容器が開けられ中身が摩り替えられていたというマクラーレン氏のレポートは信憑性に欠けるとして、自社は定期的に容器のテストを行っていると主張している。また検査自体、封印された容器を開ける事が不可能であることを明確に証明している。これはソチ五輪で使用された型の容器も同じだ。
「この場合、政治はもちろん次期五輪を非常に大きく損ねている。だが決定を下すマーケティング部は市場の状況に基づく判断を行なう。市場の状況とはつまり、巨額をつぎ込んできているブランドだ。そしてそうしたブランドをメディア上でプロモートしている広告塔がいる。
このため企業はどういった結果になろうとこれからも広告塔と契約を結ぶだろう。なぜならこうした人たちがいなければ自社が占めてきたニッチはライバルブランドに奪われてしまうからだ。だから広告塔にイシンバエヴァ選手(ロシア、棒高跳び)の獲得に成功した企業がドーピング・スキャンダルを理由にこれだけの好成績を挙げた選手との協力を打ち切るとは思えない。
それでも広告企業に対する全体的な圧力はこれから出てくるだろうとは思う。西側ではすでにロシア人選手らに対し、出場する際はロシア国旗ではなくIOCの旗を掲げるよう提案された。だがロシア人選手らはこれを拒否し、出場の際は必ず自分の国の旗を掲げるよう主張している。ドーピング・スキャンダルが騒がれる分、企業ブランドにとってはニュース欄で名前が繰り替えされるという補足効果を生んでいる。『ブラックPR』という広告用語が存在するのも偶然の話ではない。」
このブラックPRだが本来の「ホワイトPR」よりずっと広告効果が高いこともしばしばある。スポンサーにしてみればこの先ロシア人選手を支援しても、イメージが損なわれることは一切ない。シャラポヴァの一件がそのよい証拠といえる。そのかわり巨額の損益を犯すリスクのほうがよっぽど大きいのだ。