チュヴァシ共和国はモスクワから東に約630キロ、ヴォルガ河の上流に位置している。人口は130万人弱で、青森県と同じくらいだ。そのうち七割程度をチュヴァシ人が占めている。その中心都市、チェボクサルィ市に工場を構えているのが、フジクラだ。フジクラ本社の孫会社にあたる「フジクラ・オートモーティブ・ロシア・チェヴォクサルィ」では、フォルクスワーゲンとシュコダ(チェコの自動車メーカー。フォルクスワーゲンの子会社)に納入するためのワイヤーハーネスを製造している。工場は2015年にオープンし、同年10月から安定的に生産を行っている。
工場建設予定地を探すにあたってフジクラの常務執行役員・鎌田一郎氏や担当者らは、3年間かけてロシア各地を見て回った。その際に関係者から勧められ、候補に入ったのがチェボクサルィだった。鎌田氏は当初「チェボクサルィと聞いてもピンと来なかった」という。しかし他の工業団地と比べるうちに、チュヴァシ共和国のメリットが見えてきた。行政のサポートがしっかりしているのだ。鎌田氏は、チュヴァシ共和国当局の姿勢を高く評価している。
鎌田氏「工場建設の決め手になったのは、地方政府からいかに協力を頂けるかという点です。チュヴァシ共和国のミハイル・イグナチエフ首長は純粋でストレートな方。問題が起こったら、地方政府当局が解決に動いてくれるのは大事なことです。」
チュヴァシ共和国のアヴリェーリキン経済発展・産業貿易大臣は日本企業に投資を呼びかけるにあたり、「チュヴァシ共和国は政治的に安定しており、フィッチやムーディーズといった格付け機関からも投資環境が良好であるとの評価を得ています。ロシアといえば資源大国のイメージがありますが、チュヴァシ共和国にはこれといった天然資源がないので、日本のように人的資源が重要になってきます。その意味でも、日本の貴重な経験に学ぶことは大事です」と述べた。
筆者の印象では、チュヴァシ人には純朴で真面目な人が多く、おもてなし精神があり、日本人との相性も良さそうだ。湖が点在する自然豊かなチュヴァシ共和国はモスクワから飛行機で2時間。大都会の喧騒に飽きたら、ロシアの中の異国を訪れてみるのもよいだろう。