そして今、欧州における一種の「経済NATO」として米国が考えたものが実現する保障はなくなった。政治学者で雑誌「エクスペルト(エキスパート)」の政治評論家、セルゲイ・マヌコフ氏は、通信社「スプートニク」にこのような見解を表し、次のように語っている-
「欧州が直接的な意味で米国に牙をむき、米国からの命令にくってかかったという明確な印象を受ける。そして欧州は意図的に自分たちにとって都合のいい時期を待っていたという印象を受ける。米国では大統領選挙が近づいており、米国にはTTIPよりも重要なものがある。恐らくこれは欧州の人々をさらに勇気付けるだろう。その他にも、このような米国の押し付けに対する反抗に欧州をせきたてているのは、ここ数ヶ月の間に著しく変化したパワーバランスだ。まず英国のEU離脱。英国で国民投票が行われ、TTIPを一貫して支持していた最大の国である英国のEU離脱が決まった。その他にも欧州の人々はあからさまに不利なTTIPの条件に大きな不満を抱いている。なぜなら環大西洋企業はまず米国企業だからだ。その圧倒的多数が、TTIPの全ての主な利点を持つことになる大企業だ。もし何か気に入らないことがあれば、欧州諸国の政府との争いで恐らく彼らが勝つだろう。そこでEUはついに勇気をもって欧州企業の保護を始めたようだ。」
「米国人たちはオフショア活動が大好きだ。アイルランドでは2社が登録した。アイルランドの法人税は、経済的な奇跡によって非常に低くい。これは欧州の基準でみてもとても低く、たったの12.5パーセントだ。なお比較すると、米国の法人税はそのほぼ3倍だ。しかし米国は12.5パーセントでも不十分だと思った。そこで彼らは10年以上にわたってわずか1パーセントあるいはそれ以下の支払いを可能とする非常に狡猾な合意をアイルランド当局と結んだ。欧州委員会は調査を行い、アップル社が競争法に違反していると発表した。米国は自国のビジネスマンたちを身を挺して守るために立ち上がった。そしてほぼ強い口調でEUに彼らに関与しないよう要求した。なおその際米国人たちは、非常にささいな罪に対して自国で自分たちが欧州企業に対して容赦なく罰金を科しているのを忘れているふりをした。そして欧州の人々は、米国では欧州のビジネスマンや銀行家たちにあまりにも厳しい態度がとられているのは理にかなっていないとの印象を持つようになった。そこで欧州は今回、米国をひどく驚かせたのだ。EUはアップル社への非難を否定せず、むしろ130億ユーロという多額の罰金を命じた。また、税納付について疑わしいスキームを持つ他の米国企業についても話されている。」
これを背景に欧州企業は米国からの報復戦争と巨額の罰金に備えて準備する必要がある。EUはこれを理解している。そしてこのような緊張は、欧州が反乱を起こしたことを明確に述べている。欧州は残った自分たちの経済主権を維持できるだろうか?欧州の政界および経済界では、西側による対露制裁によってEUが苦しんでいるという不満の声がさらに大きくなっている。だが欧州に、TTIP締結について最近米国が行ったように、米国からの政治的圧力に大声をあげて抵抗する決意はまだない。