日弁連の二川裕之(ふたがわ・ひろゆき)事務次長は、経緯について次のように話している。
二川氏「2011年以降、各弁護士会の中で死刑制度について考える委員会を立ち上げたり、国会議員や報道関係者との議論、海外調査などを積み重ねてきました。この間に2つの大きな流れ、死刑執行をしている国が少なくなってきているという国際的な潮流と、目立った冤罪事件が出てきました。もちろん冤罪の場合に死刑を執行すると取り返しがつかないことになります。このような大きな流れを受けて、あらためて死刑制度を人権擁護大会の大きなテーマとすることにしました。
議論は積み重ねてきましたから、今回は全社会的に議論を呼びかけるだけではなくて、もう一歩進めたもの、日弁連としてある程度はっきりした『国連犯罪防止刑事司法会議が日本で開催される2020年までに、死刑制度の廃止を目指すべきである』というスタンスを打ち出したのです。」
日本の歴史に詳しいモスクワ国立国際関係大学・東洋学部長のドミトリー・ストレリツォフ教授は、刑罰緩和というアイデアはヨーロッパで生まれたもので、日本の刑罰システムの伝統には、犯罪者の権利の擁護という概念がなかったと指摘している。またストレリツォフ教授は、日本は国際社会から圧力をかけられており、大国として死刑廃止という世界的な潮流を考慮せざるを得なくなっていると見ている。いっぽう二川氏は、日本国内の議論や冤罪の恐怖が高まっていることを指摘し、世界的な潮流と日本の国内情勢は、死刑廃止の流れに同程度の比重を占めているという見解を示している。
もし日本で死刑制度が廃止された場合は終身刑がその代替刑となる。しかしその中身については、仮釈放の可能性の有無や時期など、専門家の間でも意見が分かれているのが現状だ。日弁連の今年の提言では、死刑廃止だけではなく、刑罰制度そのものの改革や、受刑者の再犯防止と社会復帰のための法制度についても触れられる予定になっている。例えば懲役刑と禁固刑を「拘禁刑」という形で一元化し、強制労働ではなく賃金制を採用する、あるいは受刑者を閉じ込めるよりも社会の中で処遇するといったことが提案される見通しだ。
これら提言案の根底にあるのは、「犯罪者をとにかく刑務所に入れればよいというものではない。人間は変わり得る存在だ」という価値観である。犯罪を犯した人にもきちんとした処遇をし、彼らを社会に復帰させる。日弁連は、このような方向に刑罰制度全体がシフトしていくべきである、という理念をもっている。
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