もっと穏やかなときにはこうしたニュースは数週間をかけてゆっくり咀嚼されたものだが、今やアナリストらもコメントを出すのも間に合わないほど。かっかと火に油が注がれた状況の全貌をここで振り返ってみよう。
「こんなにきついパンチはなかったってくらい、叩いてやるからな!」
先週ワシントンで毎年の米軍協会の会議が開催。この中でマーク・ミリー米陸軍参謀総長はロシアとの大規模な戦争は「ほぼ不可避」だという声明を表した。ウィリアム・ヒックス少尉はこれに、この紛争は「近い将来」に起こり、「流血の悲惨極まりない、迅速に展開するものとなり、止めようとしても我々には止めようがない」と付け加えている。この際、ミリー氏は矛先をロシアの脅威に向けることを忘れなかった。「我々はあんたたちを止めてやる。そしてあんたらが今まで叩かれたことのないほど強く叩いてやるからな。見誤るなよ。」
ダンフォード米統合参謀本部議長は米中央軍は新たな国家軍事戦略を準備したことを明らかにした。そこには主たる脅威としてロシア、中国、北朝鮮、イランおよびもうひとつ「急進主義の形の非国家的な挑戦」が列挙されている。9月22日、ダンフォード議長はロシアを米国の国益にとって「最大の深刻な脅威」と断言。
米国防総省のアシュトンカーター長官は9月27日、ロシアないし朝鮮民主主義人民共和国が核兵器を使用する危険性があるとの同省の認識を明らかにし、これを根拠に米国は核抑止力の完成に力を注ぐ必要があると語った。10月6日、米原爆B61シリーズの新型爆弾の最終実験が成功裏に終了している。
国防は攻撃にあらず
とはいえ、もしロシアの行動に米国がとやかくまくし立てるあの脅威のわずかな兆しでも認められようものならば…。
さらにもうひとつ、ロシアの行為でおぞましい、攻撃的なものと見なされてしまったのがシリアへのS-300の配備だった。こうなったのは米国務省のキルビー報道官がロシアはシリアから「軍人の遺体を袋詰めにして本国に送還」し、「さらに多くのロシア機が撃墜」され、ロシアの諸都市ではテロが始まる恐れがあるという声明を表した後だった。
この声明の少し前、ロイター通信のサイトにこんな情報が掲載された。ペルシャ湾岸諸国、もちろんここには中東地域における米国の主たるパートナーのサウジアラビアも入っているが、これらが近々にシリアの反体制派への可動式高射砲ミサイルの供給を開始するというのだ。この他にも西側のマスコミはホワイトハウスがシリア政府軍に攻撃を仕掛ける可能性を検討しているというニュースをキャッチした。この一方で米国はシリアとの戦争を行なう状態にはない。なぜならシリアの同盟国はロシアだからだ。
鑑別疾患
9月29日、国防省のTVチャンネル「ズヴェズダー(星)」のサイトにこんなタイトルの記事が掲載。「米国の分裂症患者がモスクワに核兵器を向けている」。これを読んだ西側のプレスは大笑い。ちょっとお言葉を返しますが可笑しいことは何もない。他の論説員らはこの現象は診断では分裂症ではなく、サイコパシーだと指摘している。サイコパシーの顕著な特徴はまず、自分は犠牲者であると思いこみ、他の人間に攻撃を仕掛けること。しかも恥ずかしいという意識は一切なく、現実状況の認識ができない。
ここまでくると米政権がロシアの声を聞き入れてくれるよう期待するほかはない。今の兵器は限界まで自動化されてしまっている。例えばあのS-300が未確認飛行物体を撃墜してしまった場合、戦闘カリキュレーションにはミサイルの飛行プログラムやそれがどこの誰から飛ばされたものかを明らかにする時間はない。戦争を開始する理由となってしまったのは撃墜された飛行機よりもほんの些細な事件だ。スエズ危機、カリブ危機など世界はこれまでも冷戦期に核の世紀末の瀬戸際に立たされたことがあった。この時、状況を解決したのは2つの大国の指導者らの政治的意思だったのだ。
なお記事の中で述べられている見解は、必ずしも編集部の立場とは一致していません。