ロシアは何十年もの間、伝統的に、ベトナム、マレーシアなどのASEAN諸国との連携を維持してきた。「東方転換」後は中国が地域どころか世界全体でロシアの最重要なパートナーとなっている。したがって、ロシアの戦略的利益にかなうのは、南シナ海を含め、東南アジアの平和な状態が維持され、安定性と協力が維持されることだ。
ロシア科学アカデミー東洋学研究所で10月7日、「ハーグ国際仲裁裁判所判決後の南シナ海状況」と題する学術会議が開かれた。南シナ海、東南アジアに関わるロシアの科学者が大勢参加した。
予想された通り、判決に対する中国当局との公式メディアの反応は、全否定であった。
ロシア科学アカデミー極東研究所東南アジア・オーストラリア・オセアニア研究所長で歴史学博士のドミートリイ・モシャコフ氏は報告で、判決から3ヶ月が経ったが情勢は緊迫化しておらず、紛争の全当事者、中国さえ、妥協の模索をめざす交渉の推進に前向きな姿勢を示している、と指摘した。同氏はまた、紛争に直接関係している当事者は抑制的なのに、むしろ紛争に直接関与していない国々、特に米国、日本、オーストラリアが、当事者よりはるかに強硬な声明を出し、裁判所の決定の履行義務を主張している。
しかし同氏は米国の立場を地域の不安定要因として評価した。現在進行中の南シナ海における米軍のプレゼンスの急速な増大は受け入れられない、とモシャコフ氏。会議の他の参加者らも氏の立場への連帯を示している。サンクトペテルブルク国立大学極東史学部長でホーチミン研究所長、歴史学博士のウラジーミル・コロトフ氏は、米国と中国のライバル関係は、地域の関係構造全体に極めて否定的な影響を与え、深刻な紛争の脅威を作り出していることを強調した。また、氏によれば、米国は今、既存のパワーバランスの破壊者としての役割を果たしている。超大国間のグローバル対決において地域諸国は単なるエキストラに過ぎず、中米紛争の過熱は地域にとり非常に危険であると警告した。
会議参加者の総合的な結論は、ハーグ仲裁裁判所の決定は期待されていたよりも地域の状況により多くの肯定的な影響を与えている、ということだ。対話への用意があるという中国の声明や中国との妥協の可能性についての新フィリピン大統領の声明、フィリピンと中国双方の代表者による香港における最近の交渉は慎重な楽観論を生じさせる。同時に、南シナ海問題の解決は米国にとって不利益であり、米国は今の和平交渉への傾きを頓挫させることを試みるだろう、という点も、誰も軽視してはいない。
状況が軍事的に過熱化した場合には、裁判所の決定などただの紙くずに過ぎなくなってしまう。