しかし東京はこの論理を無視した。1997年11月、クラスノヤルスクの露日首脳会談で、投資協力、ロシアにおける改革の共同推進、ロシア経済の世界経済への統合をめざす「エリツィン・橋本計画」が承認された。次にプーチン大統領の2000年9月の訪日で、「貿易経済分野の協力深化プログラム」が調印された。音頭を取ったのは森喜朗氏だ。次が小泉純一郎氏の「行動計画」。そして2007年の安倍氏の第一次プログラムだ。
10年間で4つのプログラム。うちの一つも功を奏しなかった。
換言すればこの間モスクワにはロシアが自分のものだと考える土地を売り渡すかわりに投資または技術協力をという提案がたえずなされていた。90年代の「バランス拡張コンセプト」や「多層的アプローチ」といったイノヴェーションも立場の本質は変えなかった。それをたとえばウィキリークスの公開文書が雄弁に物語っている。
ウィキリークスで公開された駐東京米国大使トーマス・シファー氏の秘密電報を見ると、日本外務省職員は米国側に「日本政府はアジアにおけるロシアの発展に協力する用意があるが、それはモスクワが透明かつ建設的に行動する場合に限る。日本の公人はロシアへの直接投資を奨励しないが、利益が見込める分野における個人事業は個別に支援する」と伝えていた。
ロシアへの大型投資を抑止するこうした装置は相当効果的に機能した。ここ数年両国貿易は増大しているが、日本のロシアへの投資量は嘆かわしいレベルだ。
2013年6月にかけ日本のロシアへの累計投資額は105億ドル、または直接外国投資の総額の2.8%。世界第2の経済大国である日本が外国投資国リストで10位になっている。しかも日本のロシアへの投資は極めて控えめだ。たとえば2014年、日本はロシアに2.9億ドルしか投資せず、かわって米国には421.3億ドル、中国には67.4億ドル、韓国は31.5億ドル、ASEAN諸国には110.3億ドルを投資した。2015年は完全に破綻した。ルーブル暴落は反対の結果をもたらしそうなものなのに、だ。
ロシアでは仕事がしにくい、という日本企業の主張もあろう。そして制裁。2014年10-11月の調査では、それらの投資活動への負の影響を55.9%の企業が認めている。否定したのは22.5%だった。それでもいずれの日本の大企業も制裁を理由にロシアからの撤退の意向はないとしていた。客観的に、損になるからである。
経済協力への政治的制限により、日本のリーダーらの定期的に提案する二国間協力計画は机上の空論に過ぎなくなっているという印象がある。
プーチン大統領とのソチ会談に安倍首相が引っ提げていった8項目からなる新計画は楽観をかきたてる。しかしこれも先行文書と同じ運命をたどるかもしれない。これまでの領土問題解決の試みと同様に。
露日関係は経済的なフレームを必要とする。何よりも大型経済協力プロジェクトを経済的な相互依存だけがロシアと日本を政治問題の建設的対話の足掛かりとなるのである。
今、サハリンから日本へのガスパイプラインなど、色々なことが語られている。両者が自分を数十年にわたりしばりつけるようなケースだ。中東や米国からのLNGよりサハリンのパイプラインガスは常に安上がりだ。
エネルギーブリッジや大規模物流システムのプロジェクトもある。ほかのアイデアもあり得る。それらも勇敢さと責任を必要としている。まさに安倍氏が呼びかけたように。政治決定にも劣らない勇敢さと責任が、である。