まず第一に、両者は積極的に、クリル問題における妥協について話し始めた。バリエーションの幅は、日本への2島の引き渡しから、ロシアの主権を残したまま島で共同活動をするものまで、極めて幅広い。プーチン大統領は、安倍首相との会談を前にしたウラジオストクでのインタビューでも、ある種の歩み寄りについて話し初め、40年間、中国との交渉の対象になったアムール川の島、タラバロフ島の問題解決例を持ち出した。この問題は、ロ中間の信頼関係醸成のおかげで解決が可能となった。それゆえ日本との関係も、領土問題解決を条件づけるものになるに違いないとのことだった。プーチン大統領は、今年9月2日「もし我々の関係が、日本との間で、中国との間のような高いレベルに達するのであれば、領土問題解決を条件づけるに違いない。何らかの歩み寄りの道を見つけられるだろう」と述べた。
クリルとタラバロフ島との比較は、おそらく、ロ日関係温暖化におけるカギとなる点である。あらゆることから判断して、プーチン大統領は、南クリルの島々の分割に原則的に賛成しているが、それはそう簡単ではない。日本も、ロシアに対し大変大きな譲歩をしなければならない。ロシアと近しく隣り合うか、あるいは戦略的パートナー関係を持つ国に実際ならなければならない。この事は、日本が米国との関係を断ち切り、ロシアの政治的領域に移らなければならない事を意味している。
第一に、そんなことになれば、問題の代価は実際、直接明日ではないとしても、ある一定の期間に日本の政治的方向性が変化する事となるが、日本はそうしたことになぜ、同意しなければならないのか?
この問いに対する答えは、クリル問題の枠をはるかに越えており、そもそも日本が置かれている状況に目を向けざるを得ない。
何十年もの間、米国の軍事同盟国で、主要な経済的パートナーの一つであったこの国は、今や袋小路に陥ってしまった。日本では、すでに20年以上にわたり、経済成長のテンポが大変低く、その間景気後退も経験しているが、その原因について、日本の有名な経済学者、伊藤 隆敏(いとう たかとし)氏は、1985年の「プラザ合意」にあると見ている。当時日本は、他の米国のパートナー諸国と共に、円高を進めることにより、米国の貿易・財政赤字是正を助けることに同意した。その結果、日本のメーカーは、競争力を失い、米国に市場を譲ることになり、その事は、かつて世界最大の経済大国の一つであった日本の発展にブレーキをかけてしまった。
また日本には、第2次世界大戦後、軍事関係において強い制限が加えられ、日本は安全保障問題において米国に頼ってきた。しかし北東アジアにおける米国の安全保障政策は、見事に失敗した。朝鮮民主主義人民共和国は、あらゆる制裁や圧力があるにもかかわらず、核ミサイル兵器を保有し、現実問題として日本を威嚇している。まして朝鮮で戦争が始まれば、在日米軍基地が、まず核攻撃の対象になるのは明らかだ。米国は韓国と共に、北朝鮮への攻撃を仕上げるための巨大軍事演習を行い、北を挑発している。この地域の米国の政策は、日本の安全を保障し約束しないばかりでなく、日本を戦争に巻き込むリスクを直接負わせている。
日本は、ロシアと関係を深めれば、すぐにでも多くのものを手にできる。経済再生のために不可欠な輸出は拡大するし、石油やガスなど天然資源をリーズナブルな価格で手に入れられる。それ以外に、北朝鮮との戦争の脅威を払拭できるか、あるいは低減できる(もし在日米軍基地が閉鎖されれば、日本の領土への攻撃の危険はなくなるし、日本は朝鮮半島での紛争に巻き込まれることはない)。このように日本にとって政治路線変更の利点は、極めて肌で感じられる顕著なものだ。
もちろん、こうした視点は、常識はずれの突飛なものかもしれない。しかしこの観点は、なぜロ日交渉及びプーチン大統領訪日の準備が、安倍首相とプーチン大統領がクリル問題に対し正反対の立場を述べているにも関わらず、フルテンポで進んでいるのかを説明している。安倍首相は議会で、対話と経済協力の枠内で4島すべてを手に入れると約束した。一方プーチン大統領は、ロシアは領土で取引することはないと明言している。もし実際に、日本が米国の抱擁から離れるのであれば、そのコンテクストの中ではクリルは、一義的な問題ではなくなる。この問題は、一つにまとまった一連の交渉を終わらせるのでなく、それらの始りとなるに違いない。
しかしとにかく、プーチン大統領の日本訪問とその枠内で実施される交渉が、大変興味深いものになることは確かだろう。
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