しかしこれを米国の急激な方針転換ととる日本その他の国の反応はいささか奇妙だ。第一次オバマ内閣で国防相を務めたロバート・ゲイツ氏は2011年夏、ブリュッセルのNATO本部で登壇し、欧州の同盟国に対し、自国の防衛費用増大の必要性を訴えた。さもなければNATOは米国なしで暗澹たる将来に直面することになる、と。また同氏は、冷戦後に人となった来たる世代の米国指導部は米国のNATOへの投資は割に合わないと考えるかもしれない、とも述べた。
明らかに、この発言から数年間で、同盟国により一層の国防出費を強いるという願望は高まる一方だった。
トランプ氏選出直後、安保問題担当の補佐官である退役将軍バート・ミズサワ氏はNHKの取材に対し、次期大統領は日本に対し防衛費用の引き上げと軍事同盟の枠内での負担増大を要求するだろう、と述べた。同氏は、日本と韓国を守る「核の盾」を維持するために米国は少なくない費用をはたいており、北朝鮮の脅威を中和するための核戦力をどうやって維持していくか検討する必要がある、とも述べた。
要求はこれにとどまらない可能性もある。
フォーリンポリシー誌掲載の元NATO欧州統合軍司令官ジェイムス・スタヴリディス氏の言葉によれば、トランプ氏は本物のビジネスマンとして、ある種の「すべてのものに支払わねばならない」というシステムを導入しようとしている。同盟国の米国への忠誠心は彼らがどれだけの防衛費を払う用意があるかによって図られる。最終的に米国は自らの名において行われるあらゆる軍事行動について同盟国から支払いを徴収するかもしれない。そういうシステムである。
安保問題で突然降って湧いた脅威に対し日本は返答を行う用意ができていない。そのことは日本の相矛盾した反応に表れている。
稲田防衛相は11日の会見で、日本は現状でも十分な支払いを行っている、と述べた。一方で、「自分の国は自分で守る、さらには日米同盟の強化、関係諸国との連携といったことについて、しっかり考える機会でもあると思う」とも述べた。ここには、日本は日米同盟外で自国の安全を自ら保障するという選択肢も排除していない、という示唆が読み取れる。
一方岸田外相は今回の緊急首脳会談で「日米同盟の重要性など、日本の基本的な立場をインプットする機会としても活用したい」旨を述べ、軍事費用の負担を含め様々な問題を討議する用意がある、とした。
たしかに日本は現状でも米軍に記録的な金額を支払っている。米軍基地費用として日本は今年7600億円を計上している。うちの一部は予算外の基金から拠出されている。米国側の負担は55億ドルほどとされる。しかし2004年の国防総省調べでは、日本は自国の米軍基地施設費用の74.5%をまかなっており、割合で世界一。二位のサウジアラビアの64.8%に大きく差をつけている。なお、以下、クウェート58%、スペイン57.9%、トルコ54.2%と続き、ドイツと英国に至っては32.6%と27.1%で8位と9位になっている。
しかし中国の外交への批判はほとんどなかった。「中国の外交的冒険主義」に反撃する、と述べたばかりだ。米国がTPPから撤退するとなれば、中国を経済的に抑止する方針から撤退するということになる。一方で氏は、米国の軍事力を増強する意向を明言している。そして同盟諸国にも増強を訴えている。誰に対して武装せよというのか?
それがロシアに対してのものであるとは考えにくい。ロシアとはイラン核開発やシリア危機または「領土問題」などのローカルな問題を解決するほうが得策だ。
この不透明な状況で、安倍首相にとってはトランプ時代における米国のアジア太平洋政策の急変のもたらす影響を評価するために一時休止を設けることが理想的だ。ニューヨーク会談は米日軍事同盟の不滅性を確認するにとどまるだろう。問題はトランプ氏がどうやら非常な荒治療にとりかかろうとしているということだ。さもなければどうして日本からの軍事基地の撤退などという強力な論拠を持ち出すだろうか。