政治学者で国際関係の専門家ドミトリー・ストレリツォフ氏は、トランプ氏がビジネスマンであるに関わらず、この問題について、古風と言うべきか、いくぶん保守的な視点を持っているとし、次のように述べた。
「米国には、日本製の安い車で米国が溢れ、デトロイトの人々が失業状態に置かれると恐れているTPP反対派がいる。名高い日本品質が米国のそれと対抗することになるためだ。だが、トランプ氏はこの点において、日本車による米国市場の席巻が実際に問題だった前世紀80年代の幻想とイメージを持っているように私には思われる。当時は安価な日本の産業製品が米国市場に溢れ、実際に米国人の仕事を奪っていた。しかし一方で日本市場は米国の農産品に対しては閉じられていた。
このような状況があったが、今は全てが変わった。日本車の主に米国での現地組み立てであり、米国経済に大量の資金を投資している。この投資は米国人の雇用を生んでいる。さらに今日、日本からの輸出台数は以前ほどではなく、日本市場は30年前から40年前のように閉じられてもいない。米国の農産品すら今日、日本で売られている。
私の見解ではトランプ氏は、TPP法案はどうしても避けて通れないことを理解するだろう。TPPの後ろにはあまりに多くの共通の利益がある。なにより、米国の輸出ロビー団体の利益がある。そしてこの船の針路を180度変えることは実質的に不可能だ。しかも日本でこのプロセスはすでに十分踏み込んだところまで進んでしまっている。米国にとってTPPをより受け入れやすくするために何らかの調整がなされ、何らかの例外事項が設けられるのではないだろうか…」
一方、もう1人のロシア人の専門家、国際問題評論家であり日本専門家のアンドレイ・イリヤシェンコ氏の見解はこれとは正反対だ。イリヤシェンコ氏は、トランプ氏が選挙公約を放棄するという安倍政権の期待は叶わないと述べる。少なくとも、日本に関する部分は放棄しないだろう。
これはすでに選挙戦でのポピュリズムではなく、次期大統領の声明だ。この2つは全く質が違う。初めての公式声明の後、トランプ氏が大統領としてTPP離脱の決定を変更するという論拠は見られない。ヒラリー・クリントン氏も大統領選挙でTPPに反対していたことを忘れるべきではない。これは、TPPの命運に関する一定の総意が米国で形成されたことを示している。
安倍首相は『米国抜きでは意味がない。再交渉が不可能であると同様、根本的な利益のバランスが崩れてしまう』と述べているが、トランプ氏が考え直すという期待は、TPPが葬られることは安倍首相にとってどれほど痛みを伴うものかを証拠付けている。これは、すでに用意されている日本経済回復計画、中国との相互関係、また、今年12月のプーチン大統領との会談にも影響する可能性がある。」
しかし、これら領域の1つとして、安倍首相の迅速な成功を約束するものはない。向こう数ヶ月で、安倍首相が極めて複雑で変化の激しい外交情勢でどれほど上手く国を導くことができるかが示されると、イリヤシェンコ氏は指摘している。