計画では、海底光ファイバー通信回線はサハリン州の州都ユジノサハリンスクとクリリスク(紗那、択捉島)、ユジノクリリスク(古釜布、国後島)、クラボザヴォツコエ(穴澗、色丹島)をそれぞれ結ぶことになる。回線の総延長は約940キロメートル。当初の回線容量は各島向けにそれぞれ40ギガビット/秒となり、最大80×100ギガビット/秒まで増設が可能である。
「ロステレコム」社長のセルゲイ・カルギン氏によると、「『サハリン-クリル諸島』プロジェクトの実現により、気候条件の厳しい地震地帯に高い信頼性を持った通信回線をつくることが可能になり、クリル諸島住民に近代的で質の良いテレコミュニケーションサービスを提供することができるようになる。新たな海底光ファイバー通信回線は、通信ケーブルの大容量化やトラフィック制限の解消を可能にするほか、緊急出動、警察、消防、緊急事態対応といったサービスへの接続を可能にする」という。
回線敷設費用の総額は概算で33億ルーブル。しかし、プロジェクトは非営利のものであり、その社会的意義は間違いなく大きい。住民一世帯あたりに換算した場合の費用は約60万ルーブルとなる。これはこの種のプロジェクトとしてはロシアにとって前例のないレベルの費用であり、支出額がここでは決定的な意味を持たないことを如実に示している。
総じて、新たな通信回線ができることで、南クリル住民の大陸から隔絶された現状の解消が促されるほか、新たなビジネス環境が整備され、もしかすると、新たなビジネスの方向性も生まれるかもしれない。そしてこれは、日ロの政治関係や島の運命をめぐる交渉の進展に関係なく実現するのである。
一方で、南クリル諸島における日ロ経済協力の展望が議論され始めた今、新たな通信インフラは当然大きな重要性を持つようになっている。それなのに、日ロ関係の新たな段階を象徴すべき領土において、回線敷設の主要請負業者となったのが中国のHuaweiだというのは、いささか逆説的な気がする。
そして今回、Huaweiは南クリル諸島に取り組むことになる。極東発展大臣のアレクサンドル・ガルシカ氏によると、極東でのロ中協力は極めて活発に発展しており、中国から総額30億ドルの投資を誘致するプロジェクトが23件実施されている。
12月のプーチン大統領の訪日では、81の協定や覚書を含む、幅広い経済文書が締結された。そのうち、23件が極東での経済協力に直接関連するものである。しかし、これらはまだ計画でしかなく、この中に南クリル諸島の住民に直接関係するようなものは、今のところ見当たらない。
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