しかし安倍首相率いる与党自由民主党内部にも、首相の措置について、日本国民を「失望させるもの」として批判する向きも若干ある。例えば、二階幹事長は、安倍首相が、プーチン大統領との会談で、ロシア側にあまりにもたくさんの提案をしたが、代わりに何も得られなかったというふうに批判している。その際、安倍首相は、与党内からの圧力ばかりでなく、右派保守勢力や専門家達からの圧力にもさらされている。
国際経済国際関係研究所日本セクターの責任者、ヴィターリイ・シヴィトコ氏もそう考えている-
「日本国内では、意見が分かれている。安倍首相のアプローチは、領土問題の解決を遠ざけるだけだとみなす専門家もいれば、反対に、ロシアとの信頼醸成の雰囲気づくりに賛成している人もいる。また、そもそも問題を凍結し、解決を未来の世代にゆだねるべきだという人もいる。 しかし楽観主義者もいれば悲観主義者もいるというのは、全くもって正常な状況である。南クリルにおける露日協力形成に向け進歩があるかないかは、数カ月あるいは一年もたてば示される。今求められているのは、多くの法律的諸問題の詳細な検討だ。最も肝心なのは、そうした共同活動を、どの国の法律に従って行うかである。関税や国境管理、税務調査はどうするか、という事だ。誰が、共同経済活動を管理し、税金を集め、税関検査をするのか、という事である。こうした問題の討議には、大変多くの時間がかかる。」
この観点から見れば、安倍首相への批判は、全く根拠のないものだ。なぜなら、問題は、単なる日本の投資ではなく、係争中の4島での共同経済活動だからだ。
ロシア科学アカデミー極東研究所日本調査センターのヴァレーリイ・キスタノフ所長は「これはユニークな状況で、似たようなものはまだない」と指摘し、次のように続けた-
「そうした合意ができた事自体、日本側の大きな成功だ。ロシア側は、それに合意したことで、一定の譲歩をした。ロシアは、この分野でのパイオニアである。これまで世界で誰も、誰とも、係争中の領土における共同経済活動について合意した例はない。
例えば、日中関係を緊張させている東シナ海の尖閣諸島について言えば、日本側が実効支配しており、中国側が返還を求めている。しかしそこでは、共同活動などという、いかなる言葉も使われていない。そうした例は多い。アジアではトクト(竹島)がそうだし、欧州では、英国とスペインの間のジブラルタルがそうだ。英国はまたアルゼンチンとの間にフォークランド諸島をめぐる問題も抱えている。御存知のように、この島をめぐっては、1980年代に流血の戦いさえ行われた。
ゆえにもしロシアと日本が、クリルでの共同活動に成功したならば、世界に先駆けたものとなる。一方他方では、もし我々がその方向に進むならば、島に対する自分達の主権の一部を放棄することになるのではないか?との問いが生ずる。
このように指摘したキスタノフ日本センター長は「何の進歩も達成されなかったというのは正しくない。問題は、その進歩が、誰のためになるのだろうか?という点にあるのだ」と締めくくった。
安倍首相は、南クリル(北方領土)問題に終止符を打つ意向をはっきりと示した。ロシアは、よく知られているように、南クリルの帰属に関し第二次世界大戦を総括した国際合意を犯すことはできないとの立場に忠実である。恐らく領土紛争を解決する最も良い方法は、多くの視点からとらえる事だろう。南クリルでの着実な長年に渡る日本との共同開発を、多くの視点から見て評価する事が重要ではないか? なぜなら、どのような発展も常に、不景気よりはいいものだということは、経済の法則が証明しているからである。