最も参加者の食欲をそそったのは和牛である。肉は「さばき方で味が変わってしまう」と話すのは、ミコー食品の専務取締役、沼本憲明さんだ。沼本さんは日本を代表するミートスペシャリストとして世界中に和牛の魅力を伝えている。沼本さんは軽快なトークとともに華麗な「沼本カット」を披露し、会場は大いに沸いた。さばかれた肉はもはや芸術品の域である。試食してみて、その芳醇さに「牛肉とは思えない」と言葉を失う人もいた。和牛輸出を促進する中央畜産会の難波利昭副会長は、和牛の類似品が海外で出回っていることを指摘し、和牛の公式ロゴチップがついた商品のみが本物の和牛である、と注意を喚起した。
フルーツに目がないロシア人。果実と野菜に関するセミナーの途中に、待ちきれず試食を始めてしまった人もいた。日本の野菜や果物はバラエティに富んでおり、形、味、色つやの全てが高品質だ。今回はいちご、りんご、みかん、メロンなどがずらりと並び、参加者の目と舌を楽しませた。いちごのようなデリケートなフルーツをモスクワまで空輸するのは特に難しいが、果物関係者らは「ベストの状態で運んでもらえた」と口を揃える。ロシアは税関で足止めされる確率が高く、調整事項も多い。今回の果物の輸送を担当した、ロシアCIS地域に強い東洋トランスの高橋勲社長は「いくら商品そのものが良くても、保冷技術、輸送技術などすべての条件が揃わなければ、完璧な状態で持ってくることはできません。果物は一回傷んでしまえば終わりですから、責任重大です」と話す。
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会場を一巡してみて、ロシア人に最もなじみがないと思われたのは、長芋だ。ロシア人は基本的に芋好きだが、生で食べられる長芋はむしろ芋と言うよりも未知の食材だったようだ。ねばねばとした独特の食感に驚きつつも、「おいしい」と声が上がった。ある人は「ベトナム料理店で煮た長芋を食べたが、口が痒くなるし生では絶対食べられない。日本の長芋はフレッシュでおいしい」と話していた。長芋を持参したJAPAN GREEN SUPPORTの代表取締役、小原松蔵さんは「ロサンゼルスやバンクーバーでも長芋の試食会を実施した経験があり、そこで得たノウハウを持って、今回モスクワで試食してもらいました。予想以上に反応が良かったです。ただ、このイベントに集まったロシア人は日本が好きな方ばかりでしょうから、スーパーマーケット等で無作為に試食してもらったらどうなるか、気になりますね。今後、輸出できるようになって、より多くの方に食べていただければ」と手ごたえを話す。ロシアでもベジタリアンレストランができるなどヘルシー食材への注目度は高まっているので、じゃがいもに代わる健康に良い芋として認知度アップが期待される。
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日本食材をアピールする目的は、今後の輸出につなげていくということである。日本料理店、ホテル、スーパーなど1000社以上に食材を提供している大手卸売業者「スシハウス」のマーケティングディレクター、ジャネッタ・カランスカヤさんは次のように話している。
カランスカヤさん「私達のクライアントは高価格帯の寿司バーやレストランが多いので、食材の質を落とさないように努力しています。高品質の材料なしに日本料理というのは成立しません。日本産食材は本当に質がすばらしい。生鮮食料品以外では調味料、中でも日本のマヨネーズは大変需要が伸びてきました。ドル高ルーブル安で日本産品の価格は上がったことは辛いです。もう少し安く仕入れられれば、本当に良いのですが。中国産は安いですが質は数倍も劣り、比較になりません。そこの兼ね合いが難しいところです。」
カランスカヤさんたちスシハウスの代表者らは来月、新たなパートナーを求めて日本へ出張へ行くことになっている。「更に新しい商品を提供してくれる、新しいビジネスパートナーを見つけたい。レストラン用でなく小売業者向けにも良いものが見つかるかもしれない」と意欲を見せる。