「黄金の環」には12世紀から15世紀にかけての中世ロシア宗教建築・要塞建築が多く残されている。この時代の代表的な建築物は白亜の石でできたもの。複雑なオーナメントが刻まれた石の壁に静かに手を置けばロシアの中世の世界にひたることができる。
モスクワに最も近い「黄金の環」の町はセルギエフ・ポサード。モスクワの北東70kmの地点に位置するこの町にはロシア正教の総本山ともいえる至聖三者聖セルギイ大修道院がある。ここで一番有名なのは聖像画家アンドレイ・ルブリョフによるイコノスタシスとイコン「トロイツァ(至聖三者)」。このイコン、当初は大修道院内にあったが、現在、原本はトレチャコフ美術館に所蔵されている。
古都ウラジーミルおよびスーズダリを中心に点在する聖堂・修道院・城塞などはユネスコの指定する世界遺産「ウラジーミルとスーズダリの白亜の建造物群」となっている。歴史に浸り、景色を堪能しようとおもえばクリャージマ川に沿って遊覧船に乗るのもいい。水の上からは岸辺に点在する建築の素敵な写真が撮れる! 一番きれいな建造物はネルリのポクロフ(生神女庇護)聖堂やウスペンスキー(生神女就寝)大聖堂など。ネルリのポクロフ聖堂の壁からは12世紀に刻まれたキメラや当時の女性の顔が見上げる者に静かな視線を落としている。ウスペンスキー大聖堂の内部のイコンは12世紀に描かれ、ルブリョフによって1408年に補修された。
食べ物
「黄金の環」の食べ物なら、セルギエフ・ポサードをさらに北にいったペレスラヴリ・ザレスキーに珍味がある。ここの、ほとんど海と見まがうプレシチェーヴォ湖にはリャプシカというサケ類が生息しているが、これが美味。リャプシカは町の紋章にも描かれている。現在、リャプシカは絶滅の危機に瀕していて捕獲してはいけないことになっている。ところが、町の伝統的な料理はリャプシカの燻製だ。
もうひとつの美味はコストロマーのチーズ。コストロマーは「ロシアのチーズの都」と呼ばれるほど。ロシア国内でとても人気のこのチーズ、日本のものとはまた一味違うのでぜひ食べてみてほしい!
せっかく観光地に来て地元の名産品を買わずに帰るわけにはいかない! 昔から「黄金の環」地区は工芸品作りが盛ん。主な伝統美術工芸を挙げると「パレフ」の漆塗りの細密画やセルギエフ・ポサードのマトリョーシカ人形、ロストフのフィニフチという七宝細工など美しいものばかり。フィニフチは琺瑯をベースにペンダントへッドやピアス、小箱などに美しい花や風景画を描きこんでいく伝統的な手法。美術品はひとつひとつが手作りで職人らが工房で製作している。工房は見学が可能。実際の手仕事の様子が見られる。
「黄金の環」地区は遠すぎる。どうしてそんなに遠い所まで行くのかと聞かれる方もおられるだろう。確かに近くはない。だが「黄金の環」まで足を運べば、日本ではほとんど目にすることができない果てしない地平線や言葉を失うほど美しい景色、独創的な文化に会える。大都会にはもう残されていない、地方独特のロシアの歴史とロシア魂の真髄を感じることができるのだ!
いかがでしたでしょうか? 中世ロシアの雰囲気を少しでも味わっていただけたでしょうか? さて次回は2014冬季五輪を開催したロシア南部のソチについてご紹介したいと思います! 皆さんのご感想やコメントをお待ちしています。