市場移転問題は、二つの相対する陣営の関係を複雑化した。その一つを代表するのが、その治世下に新しい用地の買収が行われた前都知事の石原慎太郎氏であり、もう一つを代表するのが、小池百合子現都知事である。彼女は、公聴会を開くよう求めている。市場移転に反対する人達は、他でもない魚市場のために環境的に見て汚染された土地を入手した事は、犯罪行為にも等しいと主張している。
一方、移転賛成派は、土壌汚染や毒物の可能性に関する反対派の懸念を一笑に付している。また敷地を所有していた東京ガスは「契約終了まで、土壌や地下水浄化のため必要なあらゆる作業が実施された。汚染レベルの調査は、現行の法律に従って行われた」と説明している。
昨年9月、市場移転反対派の論拠について、環境総合研究所顧問の青山貞一東京都市大学名誉教授は、移転場所が、土壌から有害物質が溶解し、蓄積している場所の近くにあることを、危険の理由として挙げた。
ここで好奇心をそそられるのは、すでに2008年と2010年に汚染のモニタリングが行われ、毒物がかなりの含まれていることが分かっていたという点だ。また第2次世界大戦中に化学兵器開発に取り組んでいた旧軍事技術研究所の敷地から5500立方メートルの土が、他でもないここに運ばれてきたとの説さえ現れた。研究所では、ルイサイト、マスタードガス、青酸などが製造されていたという。この研究所の敷地から土が運ばれたという話を、文書上確認はできなかったが、土壌サンプルからルイサイドの成分であるヒ素(arsenic)が見つかった。
解決法はどのようなものになるだろうか? バリエーションは2つある。一つは、土壌を完全に新しいものに取り替えることだ。古い土を遠くに持って行くか、もっと深く沈めることだ。これは根本的な解決法だが、極めて高くつく。おまけに環境専門家らは、そうした場合、毛細管効果によって、あるいは巨大地震発生時に、汚染水が表面に溢れ出てしまう恐れがあると心配している。
二つ目のバリエーションは、鉱業で用いられている注入工法だ。地下に高い圧力をかけ、グラウトを注入、それが固まった時には、土壌の地下部分は防水壁となり、すべての有毒化学物質は、強固に結合した状態で一枚岩上に残る。そして上部に、エコロジー的にきれいな土を撒くのである。これは最低限のリスクで済む、問題解決の現実的技術的方法のひとつだ。もし地震が来て、一枚岩となった部分にひびが入っても、汚染物質が大量に出ることはない。とはいえ、最後に決めるのは、専門家委員会の出した結論を処理することになる日本当局になるだろう。
ロシアにおいても、バイカル湖周辺の石油パイプライン建設プロジェクトをめぐり、似たような状況が生じた。2006年のことだったが、プーチン大統領が個人的に、決定を下さねばならなくなった。当然のことながら、大統領は、自然保護の原則をもとに、決定を下している。