第一に、原油価格の下落とそれに関連したロシアの経済発展テンポの鈍化が、ロシアとこれら3国との間の貿易取引高の縮小、一連の経済協力プロジェクトの凍結、これらの地域へのロシアの投資の落ち込みにつながったことが、その理由として挙げられる。こうしたすべてのことは、イスラム系のものも含めた在野勢力に、その統合の牽引車たるロシアとの関係を筆頭に、ユーラシア経済同盟に対する批判の口実を与えてしまった。
ナザルバエフ氏の終身大統領制から議会制の国への移行を規定する憲法改革を目前に控えているカザフスタンにとって、この時期に国内政治状況が悪化する事は、到底受け入れられない。今年末に新たな大統領選挙を控えたキルギスも同じだ。一方タジクのラフモン大統領は、今のところ、ユーラシア統合への「賛成」と「反対」の長所をはかりにかけている。しかしロシア国内には、絶えず約百万ものタジクからの労働移民が存在しており、彼らの祖国への送金は、この国のGDPの30%から40%を占めている。つまり統合のプロセスは、タジク指導部の政治的意志とは独立して進んでいるのだ。キルギスの国家予算に関しても、状況はほぼ同様だ。このようにプーチン大統領の今回の電撃訪問の課題の一つは、訪問中に各国の指導者達と、ロシア経済安定化の条件の中で、ユーラシア統合の未来に関し、 落ち着いた意見の交換をする事であった。
そしてもう一つ焦眉のテーマとして挙がったのが、安全保障問題だった。
イスラム過激派の立場が強いタジキスタンが、実に様々なイスラム戦闘グループが集中するアフガニスタンと境を接していることを考えるならば、
プーチン大統領の今回の中央アジア訪問の中で、イスラム過激派対策が主要なテーマとなった事は十分理解できる。アルマアタ、ドゥシャンベ、ビシケクでは、アフガニスタンとのCIS南部境界線を集団安全保障条約の枠内で強化する事に、ロシアが援助するとの提案を受け入れる用意のあることが確認された。
そしてさらにもう一つ、今回のプーチン歴訪の前提条件となったのは、「トランプ・ファクター」とも言うべきものだ。ホワイトハウスの新しい主にトランプ氏がなり、対外政策について驚くべき発言がなされたことは、中央アジアに当惑を呼び起こした。トランプ大統領がTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱した事、一つをとっても、経済統合に対する懐疑的な見方が生まれた。伝統的に米国寄りで、米国の物質的精神的支持を受けてきた中央アジアの政治的在野勢力の代表者も、動揺し始めた。対外政策において多角的アプローチを目指しながら、世界政治のプレーヤーの間で、自分達にとって最大の利益を得ようと、それを巧みな駆け引きとして用いてきた中央アジアの政治家らにとっても、新しい現実を評価するのは容易ではない。
そうした状況の中で、プーチン大統領は、歴訪を通じて、中央アジアとロシアが、安全保障面でも経済面でも、一時的ではない共通の利益で結ばれていることを明白に示した。そしてクレムリンも、こうした政治的方向性を、いかなる困難があろうとも、国際情勢がどのように変わろうとも、変えるつもりのない事を確認している。