ユニクロの柳井正会長兼社長は、個別企業の商品を米国内市場で生産するよう求めるトランプ大統領の発言に、かなり激しく反応した。柳井社長は、ニューヨーク駐在の朝日新聞その他のマスコミの特派員に対し、「もし直接言われたら、米国から撤退する」と断言している。
お互いの理解が成立していない事は明白だ。こうした決定に影響を与えている者は何なのか、今後状況は、どのように進展してゆくだろうか? スプートニク日本記者は、世界経済国際関係研究所の日本専門家、エレーナ・レオンチェワ氏に意見を聞いた。彼女は、次のように述べている-
「国から国へのビジネスの移転は、常にコストの問題だ。生産のための場所を見つけ、保険について合意する必要がある。国内で何らかの不動産を買わなければならない。しかし企業は、資本投下にとって最も好ましい場所を求めて、世界中を絶えず移動している。どこがより生産コストが安くて済むかが念頭におかれる。もし米国でのコストが高いとなれば、当然、日本企業は、米国には来ないだろう。それが強制されるならば、撤退もある。例えば長年、生産地として最も魅力的だったのは中国市場だった。しかし現在、多くの日本企業は、ミャンマーやカンボジア、ベトナムに移転している。そちらの方が生産コストがもっと安いからだ。」
米国の大統領が、自国民の雇用について心配するのは十分理解できる。しかし、ユニクロの柳井社長は「米国市場では、顧客にメリットのあるコストでいい商品ができない」と考えている。
CNNマネーも、その際生ずる矛盾を指摘し、同様の結論を出している。例えば、米国の消費者達は、国内で生産された商品を買いたいと主張しているが、実際には、自分達にとって、より安いものを選んで買っている。その際、彼らは、魅力的な価格のものを買いながら、同時により質のよい物も求めている。それがどこで作られていようが関係ないのだ。このように、米国の消費者達は、国産品を買いたいと欲してはいるが、それが高ければ、もっと多くのお金を払ってまでそれを買うつもりはない。
しかしもし米国内で生産しながら今のレベルに価格を抑えようとするなら、品質は下がってしまうだろう。例えば、バングラデシュで生産されたものの場合、労働コストは2.5ドルから3ドル程度と評価される。さらにそれに、施設の賃貸料や販売に関するコストが加わる。ブランドを維持するための広告料だって必要だ。そうなると米国内での小売値段は、30ドルに達する可能性がある。こうした価格で米国市場で競争するためには、生産コストは、大体同じにしなくてはならない。しかしそんなことはまずありえない。米国での店舗のコストの上昇分が、例えわずかだとしても、ユニクロが、4.5ドルで同じ商品を生産する事はできないだろう。なぜなら米国における賃金は、はるかに高く、ひと月の給与が60ドルのバングラデシュには到底太刀打ちできないからだ。このようにして米国産の商品の国内価格は、必然的に上がってしまう。もし価格を以前通りに抑えるならば、質の低下が避けられない。
ではなぜ、ユニクロにとって米国での基本的な生産コストが他より高いのだろうか? これについてレオンチェワ研究員は、次のように答えてくれた-
「まず米国では、労働コストがかかるし、おまけに綿花が生産されているのは、南部のいくつかの州だけだ。つまり米国に、綿花や毛糸など原料の多くを輸入しなくてはならない。また確かに米国内でも、レーヨンを作っているが、大部分が輸入品だ。これが、追加コストを生み出している主要な要因である。」
もしトランプ大統領の意向が、柳井社長が考えるように「米国の消費者のためにならないものだ」としたら、そうした反応はどこから来るのか、そしてなぜなのか? この問いに対し、レオンチェワ研究員は、次のように述べている-
「 ユニクロは、自社ブランドの衣料品を世界中で生産している。規模からいって世界第4位の、国境を越えた巨大企業だ。現在、米国内にユニクロの店舗は51あり人気がある事から、同社としては、さらに20店舗をオープンさせるつもりだった。ユニクロで主に扱われているのは、まず第一に若者や子供向けのカジュアル衣料だ。しかし米国内で生産した場合、その価格は20%高くなってしまう。そうなれば、 両親達は反乱のようなことを起こすかもしれない。なぜならこれは、彼らの『財布』を直撃するからだ。米国の最も幅広い層の人達の利益への打撃となるからだ。」
もしトランプ大統領の決定が、不人気であると明らかになったなら、何らかの妥協がなされる可能性があるかだろうか? この問いに対し、レオンチェワ研究員は、次のように続けた-
「トランプ氏は、予測しがたい政治家のように見える。彼の発言は、選挙で彼に票を投じた、まさに幅広い一般大衆に、しばしば向けられたものだ。もしユニクロの製品を買う米国人が不満を表せば、恐らく彼はその声に耳を傾ける可能性もある。しかし彼が今後どう行動するのか、予測するのは難しい。ユニクロ以外に、日本の自動車企業も、やり玉にあげられるかもしれない。現在米国市場には、かなり日本車が溢れており、彼らは、米車との競争で有利な立場にある。なぜなら、小型で燃費が良く、経済的だからだ。部品の多くは、メキシコで生産されており、組み立てが米国内でなされている。それゆえ米国人が日本車を買う場合、価格は非常に満足のいくものになっている。」
Toyota Motor said will build a new plant in Baja, Mexico, to build Corolla cars for U.S. NO WAY! Build plant in U.S. or pay big border tax.
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 5 января 2017 г.
トランプ大統領は、表裏なくはっきりと、日本最大手の自動車メーカーであるトヨタに対し、メキシコではなく、米国内に新工場を建設するよう求め、そうしなければ、メキシコで組み立てているカローラの輸入関税を引き上げると警告した。
先にトランプ大統領は、国外で生産され米国に持ち込まれる品物の一部に対する税金を35%にまで引き上げると述べている。ユニクロの社長も、ドイツのビジネスマンも、そうした事を認めていない。3月半ば、ドイツの経済担当大臣は「もし関税が上げられるようなことになれば、ドイツはWTOに米国を提訴する」と発言している。なぜならこうした措置は、ドイツで非常に多くの車が生産されていることを考慮するならば、敏感に反応すべきものだからだ。
しかし新大統領は、自動車生産のすべての過程を米国内で行うよう変えたいとの希望を、何度となく明らかにしてきた。これも雇用を作り出すためだ。しかし米国最大の自動車メーカーGM(ゼネラル・モーターズ)でさえ、トランプ大統領を批判し、メキシコからの生産移転を拒否した。
米国の自動車メーカー、フォードも、トランプ大統領から関税値上げという警告を受けた。これに対しフォードは、総額16億ドルに及ぶ、メキシコでの新しい組み立て工場建設プラン撤回の決定を発表している。これは、トランプ氏が米国への輸出向けにメキシコで生産しているGM車に対し税金を課すことを、トランプ大統領が発表してから、わずか数時間後に明らかにされた。しかしGMは、トランプ大統領が批判した後も、自分達の態度を守り、メキシコからの工場移転を拒否した。
最後に世界経済国際関係研究所のレオンチェワ研究員は、次のような言葉でスプートニク日本記者のインタビューを締めくくった-
「もしそれが企業にとって利益のない事であれば、命令的な形で企業に、何かを強制することなどできない。しかし、耐えがたい諸条件を作り出すことはできる。トランプ大統領がしようとしているのは、まさにこれである。」
例えばトランプ大統領は、自動車大手GMがメキシコで「シボレー・クルーズ」を生産していることを批判し「多額の国境税」を課すと警告した。大統領はツィッターで「GMはメキシコ産のシボレー・クルーズを関税なしで米国に輸入している。米国内で生産するか、多額の国境税を支払うべきだ」と指摘した。これに対しGMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「工場に対しては、生産に向けて長期的な投資が行われた。それらを取り消しにすることはできない」と述べている。資本集約的な日本企業が、他の道を行くと予想するのは難しい。