自民党内でも意見が割れている。憲法9条改正に消極的な姿勢を示している石破茂元幹事長は「勢いで憲法を改正してよいはずはない」と述べた。また岸田文雄外相は、当面憲法9条の改正は考えていないという立場をあらためて示した。2018年の自民党総裁選では、憲法、特に9条に対する立場の違いが争点になるかもしれない。ロシアの著名な日本研究者で、ロシア高等経済学院のアンドレイ・フェシュン准教授は、ポスト安倍の呼び声が高い岸田氏が9条の改憲に反対することで、安倍首相との差別化を図り、戦後の平和教育を受けた世代の支持を得るだろうとの見解を示している。
しかし、東京大学教授で「九条の会」の事務局長を務める小森陽一氏は、自民党内の反対意見は安倍政権の歯止めにはならないという見解を示している。
小森氏「この数日の動きをみれば、自民党内の慎重な議論を求める声はほとんど無視され、むしろ憲法審査会で一気に議論を進めてしまおうという姿勢が見られます。岸田氏や石破氏の発言をつぶしていく方向で動いており、麻生太郎副総理が派閥の拡大を表明しているのも、首相をバックアップする党内一致体制を作ろうという方向性によるものでしょう。また安倍首相は、憲法改正の是非を問う国民投票を、国政選挙と同時に実施する可能性も示唆しました。今の衆議院議員の任期との兼ね合いを考えると、いつごろ総選挙があるかは大体予想できます。そういう意味でも、政治日程が限られているので、一気に進めたいということでしょう」
「私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」
この1項と2項を残したまま自衛隊を明文化する「加憲」という考え方は、もともと公明党が主張していたものなので、公明党は基本的に賛成するしかない。そして災害のときに国民を守ってくれる自衛隊の存在を明文化しよう、と言われると、多くの人が違和感なく頷いてしまうが、そこが政府の狙いである。小森氏は、これは条文を加える「加憲」ではなく、憲法を壊す「壊憲」であるとみなしている。
小森氏「加憲となれば、『現存している自衛隊の存在を認めるだけ』ということにはなりません。政府は2014年7月に閣議決定で集団的自衛権行使を容認するという解釈改憲を行い、それに基づいて2015年9月に安保関連法(平和安全法制整備法および国際平和支援法)を強行採決しました。こうして自衛隊は『集団的自衛権の行使を可能にする安保法制』を背負った存在になりました。その自衛隊について憲法で明言するということは、自衛隊が軍隊として機能する方向に道を開くということです。書き加えられた最も新しい部分が機能するわけですから、私としては自衛隊の存在を憲法に明記すれば、事実上、9条の1項と2項が無効化されると考えています」
小森氏「安保法制を作ったけれども、南スーダンから自衛隊が撤退しなければならなかったのは、9条の1項と2項が機能しているからこそでした。それがつまり憲法と法律の上下関係なのです。政府からすると、安保法制を内在させている自衛隊という組織を憲法に書き込んでしまいさえすれば、この問題はクリアになります。これはきわめて危険なことですが、多くの人が加憲を『軽いもの』として受けとめています。そこがまさに政府の狙いでしょう」
また小森氏は、こうした政府の狙いが、マスメディアを通して国民に対して明らかにされていないことが非常に大きい問題であるとして、懸念を示している。