菅野氏「メディアではよく、会員数約3万8千人の日本最大の右派系市民団体という風に表現されます。私も基本的には、その見方で間違いないと思っています。」
スプートニク:海外メディアではナショナリスト団体、安倍政権を操る極右団体とも表現されています。右派系市民団体、という表現と温度差がありますね。
菅野氏「日本会議の主張(皇室崇敬、再軍備、憲法改正、外国人参政権の反対など)はとてもナショナリスティックです。一方、『安倍政権を操る』というのは、正確に言えば、そうとも言い切れない側面があります。確かに安倍政権の閣僚の多くは日本会議国会懇談会という議員連盟に所属しています。その意味では日本会議が安倍政権に対し、強力な圧力をかけているのは事実です。安倍晋三氏個人に対する影響力、これまでの付き合いの長さ・深さを考えると、日本会議は無視できない存在です。
しかし日本会議が自民党の強力な支持母体なのかどうか、という点で考えると日本会議の票数は大したことはありません。国内外の圧力団体に比べると、組織としての力はきわめて限定的だと思います。日本会議の運動だけが安倍政権を誕生させたのではありません。」
12日、日本会議は参院選の結果を受け、オピニオンを公式サイトに掲載した。それによれば「憲法改正に前向きな政党が3分の2の勢力を確保したことは、国民の間の憲法改正への理解が表れた結果であると受け止めている。各党はこの民意を厳粛に受け止め、速やかに国会の憲法審査会の審議を再開し、改正を前提とした具体的な論議を加速させるべき」とある。
スプートニク:あまり具体的ではない、ということで言えば、日本会議地方議員連盟のメンバーと話していると、日本会議の公式見解とギャップがあると感じています。個人的に話す限り、彼らは本当に日本のことを憂いているように思うのですが。
菅野氏「憲法改正において、憲法何条をこういう風に書き換えるといった具体案は、両団体とも明確に出したことはありません。美しい日本の憲法をつくる国民の会は1000万の署名を獲得する運動をしていますが、署名の際に配られる紙にも『憲法改正を求めます』としか書いていません。あまりにも多種多様な人々が日本会議の中に集まっているため、どの条文をどう変えるかを書くことができないのです。憲法九条を変えるのが先だという人もいれば、緊急事態条項を入れるのが先だという人もいて、会の総体としての意見を集約しきれていないのです。憲法改正をするのだ、という一致点だけがある。そのような具体性のなさが、ギャップという形であらわれてくるのだと思います。」
様々な思想をもつ人々が集まり、具体性のない改憲活動をしている日本会議。それにもかかわらず一万人規模の動員力があったり、一致団結することができるのは、彼らに共通するポイントがあるからだ。
スプートニク:日本会議は宗教団体であるという指摘もあります。しかし役員名簿によれば、色々な宗教の代表者が会員になっており、系統がバラバラです。日本会議と宗教の関係はどうなっているのでしょうか。
菅野氏「日本会議は『日本を守る会』『日本を守る国民会議』という2つの団体が前身となっています。このうち前者の日本を守る会は、宗教団体の集まりでした。彼らは、反創価学会・反共産主義という2つの意図があって集まったのです。1970年代当時、各種宗教団体にとって、ライバルであり脅威であったのは、創価学会です。当時の公明党はきわめてリベラルな政党で、それに対抗する必要がありました。なおかつ日本の宗教界が警戒していたのは共産主義でした。
創価学会以外の日本の宗教団体は、単独では集票力がありません。集まらないと、候補者の一人も立てられないというのが実態です。日本会議を宗教団体だと見るのは誤りで、『宗教団体の連合体』だと見るべきです。もともと反創価学会と反共産主義という意図で集まったので、日本会議の中に仏教もキリスト教も神道も入っているのです。」
もとは反創価学会を軸にして集まったはずが、自民党が公明党と連立を組んでいるというのは日本会議にとって皮肉な話だ。しかし菅野氏は「それこそが自民党のきわめて冷静なマキャベリズム」だとみている。
労働組合に基盤をおいている民進党も、労組の弱体化が激しく、思うような選挙展開ができなかった。野党を支持する圧力団体の機能低下を考慮すれば、参院選で与党が勝利したことは非常に納得がいく。
菅野完氏のフル・インタビューはスプートニク・ポッドキャスト「話題のテーマ・インタビュー」コーナーの「ベストセラー『日本会議の研究』の著者、菅野完氏に聞く!安倍政権に影響を及ぼす市民団体、日本会議の正体とは?」をお聴きください。
(菅野完氏プロフィール)1974年、奈良県生まれ。一般企業のサラリーマンとして勤務するかたわら執筆活動を開始。退職後の2015年より主に政治経済分野での執筆を本格化させる。2016年4月、扶桑社系ニュースサイト『ハーバービジネスオンライン』での連載をまとめた『日本会議の研究』(扶桑社新書)を上梓。発売後またたく間に12万部越えのベストセラーとなった。他に『保守の本文』(扶桑社新書)、『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共著・河出書房新書)など。