あんこが大好きなロシア人女性、アナスタシア・ベレゼニエツさんが始めた「たいやきカフェ」は、サンクトペテルブルクにおける日本文化の発信地となり、これまでにも書道や草履作りなどの講座を開催してきた。しかし今回のたいやき祭りは初めて、日本人学生の提案からスタートし、ロシア人スタッフと共同で企画して開催した。焼きたてのたいやきはもちろん、おにぎり作り、折り紙、日本語会話講座、浴衣の着付け、射的、折り紙の金魚すくい、バンドの生演奏、盆踊りなど、日本の祭りの色々な要素をふんだんに取り入れた内容になった。
プロジェクトの中心になったのはサンクトペテルブルク大学に留学中の日本人学生、鳴海かさねさん、進藤萌さん、高山黎さんだ。さらに彼女たちの呼びかけで30人もの日本人留学生が準備や運営に協力した。通常、留学生は留学生だけのコースで学ぶので、ロシア人と一緒に何かをする機会はあまりない。イベントを準備する過程で日本人留学生たちは、ロシア人との時間の概念の違いや、疑問に思ったことをそのままにしない、といったコミュニケーションの方法を身につけた。
鳴海さん「このイベントを提案する前に、イベントのコンセプトを決めて、自分たちが何をしたいのかをロシア語で正しく伝えるということが難しかったです。初期の準備段階では説明不足で誤解が生じることもありましたが、そこを一つ一つクリアしていくことが大切だなど感じました」
ちなみに気になるたいやきのお味は、日本でもお店が開けるレベルだ。鳴海さんは「薄皮で具沢山なところが美味しい」と話す。これは「わかば富山店」での修行の成果だろう。ロシア人の中にはあんこが苦手な人もいるので、日本にはない色々な味がある。高山さんは「僕のおすすめはハムチーズ。強いて言えばもう少し皮が厚くてもいいかな」と言う。どうも、皮の厚みについては好みが分かれるところのようだ。
訪れた人からは、毎月やってほしいという声が出るほど大好評だった。主催したメンバーらは、「喜びと達成感で胸がいっぱいになった」と話す。
進藤さん「ロシアに来たのは、もっと語学力を高めたいと思ったからでした。来てくれた人と会話したり、家でもおにぎりを作ってもらえるように鍋でのご飯の炊き方を紹介したレシピを露訳して配るなど、ロシア語の実践練習ができたと思います」
高山さん「テレビやインターネットでは伝えられない日本の一面を、体験を含めて紹介でき嬉しく思います。お祭りには子供たちや若い人たちが多く来てくれましたが、このイベントが日本についてもっと知りたいと思うきっかけになってくれたら良いなと思います」
留学生のカリキュラムは5月から6月にかけて終了する。まもなくロシアを離れる三人はそれぞれ、ロシアを再訪したい、ロシアと日本とのつながりを強め、相互理解を深めていきたいという思いを抱いている。鳴海さんは「今回1回きりではなく、これからペテルブルグに留学しに来る大学生に、このたいやき祭りを定番行事として続けて頂けたら光栄です」と話している。