参加者らは地方政府関係者や経済団体との懇談を行ったほか、ショッピングセンターや小売店を視察した。この二都市はロシア全体でみると比較的給与水準が高く、値段が少々高めでも質の良いものはよく売れている。日揮や北海道銀行が中心となってハバロフスクに設立した日露合弁の野菜温室「JGCエバーグリーン」から出荷されたトマトは、他のトマトより割高だが売れ行きは好調で、行列が絶えない。
ミッションに同行した、ジェトロ・モスクワ事務所の野村邦宏所長は「ロシア極東は小さい市場だと見なされているため、欧米系の大手チェーンの進出が鈍く、まだサービスレベルが低い。しかし住民は質の高いサービスを求めており、また観光都市として旅行者のためにもサービスのレベルを上げたいというニーズがある」と指摘する。
ミッション参加者らの業種は多岐にわたっており、すでに海外進出経験がある企業ばかりだ。2〜3時間で行ける隣国にも関わらず、これまでロシアが進出先として候補に挙がってこなかったのは、やはり国のイメージの悪さのせいである。しかし野村氏はジャカルタや香港での駐在経験を振り返り「日本企業が多数進出しているアジア諸国に比べて、ロシアのビジネス環境が特別悪いということはない」と話す。2017年の世界銀行Doing Businessによる総合ランキングでは、190か国・地域の中でロシアは40位。日本は34位、中国は78位だった。ロシアは来年、ベスト20に入ることを目標としている。
また、東南アジアのように人口や所得が増えてマーケット全体が拡大していくような国はよいが、ロシアのように市場規模に変化がないと、新規参入が難しいというイメージをもつ人もいる。しかしロシアの小売店の品揃えに目を向けてみると、どのショッピングセンターでも全く同じような商品が並んでおり、業界内での競争は小さいということがよくある。人々は選択肢を求めているが、選びたくても選べない状況なのだ。
ジェトロはロシアビジネス参入の間口を広げるべく、様々な取り組みを行っている。昨年12月からロシアデスクを設置し、中堅・中小企業を対象にロシア展開支援事業を開始した。同事業の受付状況は、6月19日現在で100社に達している。企業はロシア市場に精通した専門家のアドバイスを無料で受け、出張同行や戦略立案などのサポートを得ることができる。現在は10名の専門家がいるが、需要増を受けて7月から新たに6名増やす予定だ。また今年春には、ロシアの消費市場を綿密に分析した「モスクワ・サンクトペテルブルク スタイル(新版)」と「ウラジオストク・ハバロフスク スタイル」を発行。出張に行かずともロシアがわかる盛りだくさんの内容になっており、現地の生活を垣間見ることができる。
また、サービス業界に限らず日本企業の進出に欠かせないのは、地方政府のバックアップである。経済特区設置や税制優遇もよいが、一時的な目先の利益だけを考えて進出する日本企業はない。思わぬ問題が起こった時に、地方政府が相談にのり、解決に動いてくれることが大事だ。これは日本企業の共通認識であり、チュヴァシ共和国政府の手厚いサポートが工場建設の決め手になったフジクラのような例もある。このチュヴァシ共和国、2017年のロシア国内投資環境ランキングでは2位になっている。(1位はタタルスタン共和国)プーチン大統領は順位付けによって地方政府間の競争をあおり、国全体の投資環境を高めようとしている。
来月にはロシア最大級の産業総合博覧会「イノプロム2017」がエカテリンブルグで開催される。日本はパートナーカントリーとして、168社が参加する大型ナショナル・パビリオンを設置し、製造・エネルギー・インフラといった分野だけでなく、食や観光といったサービスも存分にアピールする予定だ。