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中川監督は、27歳の若さで国内外の映画祭で数々の受賞を果たし、保守的だった日本映画界に新風を吹き込んでいる。国際批評家連盟賞の審査員たちは今回の受賞の決め手を「詩的な言語の非常に巧みな使用と、劇作術の素晴らしさ」だと話し、ロシアの批評家たちは「映画の中で描かれた、清くてデリケートで、透明で澄んだ愛というモチーフ、そして日本らしい知慮に対して賞を贈りたい」と述べている。
「四月の永い夢」は映画祭会期中に一般向けに2回上映された。筆者が訪れた6月28日、一般チケットは完売で、メディア関係者も階段にびっしりと座ったが、それでも場所が足りずに追い出された人もいた。「四月の永い夢」には日本の都会と田舎、春と夏のそれぞれの美しさ、喧騒と静けさ、手ぬぐい、花火や浴衣など、ロシア人にとってはエキゾチックなモチーフが次々と登場する。初海が、元教え子の楓と一緒に銭湯に入り、楓が手でお湯を飛ばすシーンでは大きな笑い声が起きた。日本人なら誰でも子どもの頃に風呂でお湯を飛ばして遊んだ記憶があるが、ロシア人にとってはそんな些細な遊びも新鮮に映る。観客らは「気持ちのよい余韻が残った」「映像がとてもきれい。心が軽くなった」などと話していた。
「水力学」「運命のプレゼント」などの代表作で知られるロシアの映画女優イリーナ・ラチナさんは、日本文化が好きな娘のすすめで映画を観に来た。
ラチナさん「厚顔無恥な空気が蔓延しているこの現代にありながら、とても繊細な映画で、人間としての本当の気持ちを感じました。この映画は清らかさと明るさがある調和のとれた歌のようなもの。映画で描かれていた信じられないような深い愛の一部分は、私を含め、ひとりひとりの観客の心の中に残ったと思います。監督は20代ですか?そんな若い人が円熟した深い映画を撮るとは心地のよいものです」
ラチナさんの娘のマリア・ブドリナさんは「私は日本映画が好きなので、ここに選ばれて来るのは良い映画だろうと確信をもっていました。感想?やっぱり私の思ったとおりでした。日本はアメリカやイギリスなど外国の文化であふれていますが、そんな中でも自分たちの国の伝統や文化に忠実であり続けて、それを世界に誇っているところが良いですね」と話した。
2回続けて鑑賞したリピーターの女性は「この映画は癒しの力を持っています。映画祭で他の映画もたくさん観ましたが、世界は痛みや恐怖で満ちていると感じました。その中で、この映画だけが心の静謐を与えてくれました」と話し、中川監督に何度も感謝の言葉を口にした。
「四月の永い夢」はモスクワ映画祭での上映が世界初公開。日本での公開が待たれている。