ロシアにおける日本研究の第一人者、モスクワ国際関係大学教授のドミトリー・ストレリツォフ氏は、安倍内閣はもうしばらく低空飛行で持ちこたえるが、その後ジリ貧になるとみている。
ストレリツォフ氏「安倍内閣には蓄積されてきた政治的資本や信頼の残り香のようなものがあり、それはまだ使えるでしょう。首相は自分の後継者についてまだ考えていないし、強い政敵もいません。安倍氏は、何をやっても裏目に出る状況を恐れているので、しばらくは何も新しいことをしないでしょうね。しかし総選挙が後に伸びれば伸びるほど、安倍氏、というより自民党が負けると思いますし、敗北の責任をとって安倍氏が首相の座を退くということにもなりかねません」
いっぽう、日本の政治学者で京都精華大学専任講師の白井聡氏は、現在の状況を「急激な流動化の直前」だと話している。
白井氏「25日、加計学園問題をめぐる閉会中審査が終わりましたが、これは安倍内閣の信頼を回復するものではなく、支持率低下はこのまま止まらないと思います。次期首相候補に石破茂氏が意欲を示していますし、支持率がもっと低下すれば状況は更に流動的になり、自民党の内外から強力な政敵が現れる可能性や、ひょっとすると自民党が分裂する可能性もあるので、何が起こるか全くわからなくなります。私も含め安倍政権発足当初から『NO』と言ってきた人たちはもちろん、そうでない人も、今は安倍政権への期待を維持するだけの具体的な理由が残っていません」
安倍首相は歴代の日本の首脳と違って、ロシアとの領土問題の解決に向けて強い意欲を示し、プーチン露大統領との対話を重ねてきた。ロシアとの関係改善は安倍内閣の蘇生に役に立つのだろうか。
ストレリツォフ氏「安倍氏はロシア外交に実に政治的積極性を見せていますが、これもアベノミクスと同じで、今は目に見えた効果はなく、まだ効果が出るのを待っている段階にすぎません。もちろん、結果が出なくても、安倍氏が様々なことに取り組んだというのは事実なので、支持率にはプラスになると思います。しかし過大評価は禁物です。日本にとっては対中関係の方が対露関係よりも大切ですから」
対して白井氏は、安倍政権の「対露カード」などというものはそもそも見せかけだったと話す。
安倍政権、またその支持者たちが対米従属を是とするのは、過去の栄光へのしがみつきがあるためだと白井氏は分析する。
白井氏「戦後日本の繁栄は、親米保守権力の指導の下もたらされたという意識があります。それは豊かさの問題にとどまりません。日本は、米国のおかげでアジアにおける戦前からの優越的な地位を敗戦にもかかわらず保つことができたわけで、その意味で対米従属は戦後のナショナル・プライドをも支えてきたのです。しかし、90年代以降、この構造は揺らいできました。今後どのような政界再編があったとしても、親米保守路線の合理性が消えたことが認識され、無条件の対米従属という方針が崩れなければ意味がありません。対露関係の改善も、この変化抜きには不可能です」
奇しくも安倍政権の対露政策については、ロシア人専門家がやや楽観的に、日本人専門家が悲観的に評価し、意見が分かれた。来たる9月6日と7日にはウラジオストクで東方経済フォーラムが開かれ、安倍・プーチン会談が行われることになっている。その頃には、安倍氏の自民党総裁任期切れまで、約1年を残すのみとなる。果たして支持率はどちらの方向へ動くのだろうか?