現状を言えば、ロシアは総じてエコな国ではない。例えばロシアの都市はどこも全暖房システムを採用している。冬には集中温水工場で沸かされたお湯が、街中のあらゆる建物内にはりめぐらされた管の中を流れていくため、部屋の中は暖かい。しかし、このためにクラスノヤルスクでは1か月に35万トンもの石炭を燃やしている。各家庭では温度の調整もできず、設備の老朽化で熱効率も悪い。そして、暖房費用は市民の財布を直撃する。暖房代を冬に集中して請求すると超高額になるので、ロシア人は一年中、分割で暖房代を払い続けているのだ。ロシアは資源も土地も豊富であるが故に、長いこと環境問題に注意を払ってこなかった。今、そのツケがまわってきているのである。
日本の設計事務所「日建設計」グループは、クラスノヤルスク市のスマートシティ建設に向けて、2012年から都市計画策定を進めてきた。2014年には、同市北部でロシア初のスマートシティを体現した町「プレオブラジェンスキー」の建設が開始。町内にできるマンション21棟6000戸に、家族連れを中心に約1万5千人が居住する予定だ。マンションが順番に建設されていく中で、家族向け物件の7割がいつも着工開始と同時に売れてしまう。日建設計が建築デザインに関わったマンションはモスクワにもあり、好調な売れ行きを見せている。
プレオブラジェンスキーのプロジェクトを手がけるディベロッパー「モノリットホールディングス」広報担当のマリア・パヴレンコさんは「私たちのお客様は、マンションの一室を買うというよりは、広い歩行者道路や広場、生活に必要な全てのインフラがある、安全で快適で省エネな住環境そのものを評価してくれています。町の調和のとれた外観から最新スマートシティ技術まで、至るところで日本の要素を感じてもらえるはずです」と話す。
そんなクラスノヤルスクに吉報が届いた。2016年12月に、日本が主導する「APEC低炭素モデルタウンプロジェクト」の対象都市に選定されたのだ。日本はAPECに加盟する国や地域の低炭素化を応援し、自国の低炭素化技術を普及させる取り組みを2010年から行っている。これまでの対象都市は6都市で、中国、タイ、ベトナム、ペルーなどから選ばれてきたが、いずれも温暖な気候の場所ばかり。クラスノヤルスクのケースは、寒冷地での低炭素都市を実現する初のケース・スタディとなり、世界の注目を集めている。
クラスノヤルスク市がロシアで一番のスマートシティ先進地域となったのは、エドハム・アクブラートフ市長のイニシアチブによるところが大きい。市長は以前、都市建設の専門家として活躍していたため、スマートシティにかける情熱はロシアの政治家の中でも郡を抜いている。