ロシアで同様のことは起きていないようだ。いずれにせよ、ロシアのメディアはこのテーマを報じていない。しかし、世界の大多数のようにロシア人が核の脅威を危惧していないと見なすのはナイーブに過ぎるだろう。慎重で実利的な米国人は冷戦時代、特にキューバ危機の際すでに、自らの命への自己責任的態度から、今日の日本人のように地下シェルターを大量に建設していた。一方ロシア人には長年、信頼の置ける「核の盾」をロシアは持っているとの考えを吹き込まれており、これは実際に、政府の主な関心事なのだ。
では、再び露米関係危機に陥っている現在、ロシア人の意識に何か変化はあるのか?
「第3次世界大戦」の危惧は、インターネットの時代において核爆発よりも速く拡散する。恐怖があるところ、それを静める提案もある。そして実際に、ネットにはロシア語で、個人向け「即入居可シェルター」を作る提案が散見される。しかし、このサービスは今日のロシアでどれほど需要があるのか?
特別な防衛施設や個人向けシェルター建設を手がける会社TOZのマネージャー、ドミトリー・ラッソシュキン氏は当編集部に対して、シェルターの価格が普通のロシア人にも手が届くものなのかを語った。
専門家らは、核戦争を抜きにしても、今日の世界が爆発寸前のボイラーに似ていると指摘。戦争や伝染病の流行、大量破壊化学・生物兵器、自然災害。天候は不愉快なサプライズをより頻繁にもたらすようになっている。2010年夏には猛暑による森林火災で泥炭が燃え、モスクワをスモッグが覆った。産業災害の極限的な状況のもとで、郊外の住宅に住むような一般人は自身とその家族の安全を保証するため、どんな対策を取れるのか?ロシア市場にはどんな種類のシェルターがあるのか?
「防衛施設には1から5の決まったクラスがある。5級は最も簡素なタイプで、密閉された地下室がこれにあたる。階級が上がるごとに、シェルターは完全で、設備が充実したものになる。大人数、長期間滞在向けだ。そのような設備の内容を規定する非常事態省の命令が私たちにはある。ソ連時代から存在するものだ。とはいえ、補充されている中身は全て、現代のロシアにおいて必要で最新のものだ。用途によって、シェルターは様々な様相を呈する。最も簡素なのは密閉された地下室だ。もしこれが防空壕ならば、地下深くに作られる。その場合は複数の換気機能がつく。外から空気を供給するもの、供給された空気をろ過するもの、特別な方法でシェルター内に酸素を作り出すものなどだ。より単純なケースの火事や煙対策としてシェルターには、対煙フィルターFV70という特別なシステムがある。フィルターは工場での事故など、産業事故により適している。放射線にもだ。」
シェルターでの避難期間は何によって決まり、最大滞在期間はどの程度を想定しているのか?
「設置されたろ過設備が、どれほど長く空気をろ過できるかによる。最大で数週間のろ過が可能なフィルターを見たことがある。核戦争の場合、外からの空気はそのまま供給できず、ろ過する必要があるのはわかりきっている。しかしフィルターにも稼働により消費されるリソースがある。全ては、シェルターにどれだけのフィルターがあるかによる。」
しかしおそらく、生き残るだけでは不十分だろう。誰かが絶対に見つけてくれると見込むことは常に出来るものではないため、被害地域から自力で抜け出す必要がある。地下からあなたの生存を伝え、救助を要請するのに必要な通信設備にはどんな種類があるのか?
「防御施設内の司令塔という概念がある。したがって、電話交換機も備えられており、通信は保たれる。しかし、基本的に全ての防衛施設は第一波のみを生き延びるために作られている。人間は水のような、再生しない資源を常に必要とするため、シェルター内での長期間の生活は想定されていない。産業用水ではなく飲料水が足りる分は、基本的にはシェルターに滞在することは可能。外の水は放射能で汚染されている可能性があるため、新しい水を汲むことは危険だ。第一波を乗り切った後の救出の問題はもう、ロシアで言う非常事態省など救助隊の課題だ。理論的には、爆発後に放射能に汚染された埃が落ちたり大きな問題が収まれば、シェルターから抜け出し、爆心地から避難する事が可能だ。」
このように「即入居可シェルター」は自身の命への長期的な投資であり、そのため、ロシア市場でシェルターが売れることは確かだ。あなたはシェルターに金庫、会議室、サーバー室、ワインセラー、ジム、またはアートギャラリーを設置することができる。これは、産業災害だけでなく、単に悪意ある人物からも確実に保護された、あなたの個人的な秘密なのだ。