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私たちがイシグロ氏に注目したのは、『日の名残り』でブッカー賞を受賞した直後です。これは彼の3作目の長編小説でした。それからその前に書かれた2作の『遠い山なみの光』と『浮世の画家』に目を通しましたが、これらには完全に魅了されました。これらの作品の登場人物らは日本の原爆の記憶、戦中時代の記憶を追っています。最初の作品からはっきりしていますが、イシグロ氏は現代文学の中で最も意味ある作家になるでしょう。彼にノーベル文学賞が贈られたのはその創作が十分に評価されたからです。私たちはイシグロ氏によって書かれた全作品、あわせて8作を出版しました。これで書店の書棚から彼の本は飛ぶように売れていくでしょう。とはいえ、これまでも彼の著作は安定して売れていましたが。
イシグロ氏の本を読んだ読者が「エクシモ」出版によせたレビューをここでご紹介したい。
「これはむろん私見だが、イシグロ氏は6歳で日本を離れてはいても、日本人である両親のしつけを常に受けて育った。デフォルメされようが、ヨーロッパ文化の夥しい多層といっしょにされようが、日本の精神性というのは消えてなくなりはしない。こうした本をヨーロッパ人またはロシア人が書けるとは、私にはどうしても思えない。」
「『わたしを離さないで』を読みながら、一体、いつ蜂起が始まるのかと固唾をのんでいた。主人公らはいつ、闘う必要性を理解するのか。いつ逃げ出すのか。生を愛しているのなら、なぜそのために闘おうとしないのか。ところが本の中では革命も蜂起も逃亡も起きない。澄んだ明るいメランコリーが多少あるだけ。それが桜の木の下で行われようが、英国の沼地であろうが、それはたいして重要なことではない。公を個人の前に据え、どんなに辛かろうが、他のやり方があるのではないかと思おうが、義のために完全に身を投げ出すということ、これはすべて骨の髄まで日本的なことなのだ。イシグロ氏は日本を去ることはできるかもしれない。が、日本のほうはイシグロ氏から去ることは決してない…。」
「イシグロ氏のノーベル賞受賞は時代の印だ。時に私たちも彼の作品の主人公に自分を擬えることがある。カタストロフィまでほんのわずか、という。」
Fun Facts:
最も人気を集めたイシグロ氏の作品『わたしを離さないで(原題:«Never let me go»)は2011年に映画化された。これによってイシグロ氏の作品の知名度は一気に上がった。
イシグロ氏はドストエフスキーに強く影響を受けたと語っている。またジャズの歌詞も書いている。