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シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、ロシアのシリア介入に対する評価は「どのような政治的立場から見るかによって変わる。日本でポジティブに評価されることはまず無い」と話す。
個人的には、西側諸国や湾岸諸国と比較して、最も効率的かつ有効に関与したのがロシアだと思います。ISだけでなく、アルカイダやそれにつながるテロ組織を撲滅しなければならない中、米国は空爆回数を抑えるなど軍事介入の費用対効果が伴わない中途半端なやり方をしてきました。米国はアルカイダ系ヌスラ戦線を事実上間接支援してきたので、本来なら国際社会から非難される立場でもあります。それに対してロシアはISもヌスラ戦線も、テロリストは徹底的に叩くという一貫した姿勢を見せ、実際、ロシアの軍事介入後にISが弱体化していきました」
青山氏は、テロとの戦いにおけるロシアの働きをある程度評価する一方、「ロシアはシリアの主権尊重を唱えつつ、シリアの政治的主体性を奪ったというジレンマがある」と指摘している。
青山氏「ロシアは、『シリア政府が要請しているから』というスタンスで、シリアの主権尊重を訴えながら内戦に介入しました。だからこそISと効果的に戦えたという側面もありますし、実際に主導的な役割を果たしました。しかしシリアは政治的にすっかり弱り、ロシアがシリアにおけるテロとの戦いを完全に主導してしまっています。シリアに主体性がないまま、シリアに関与し続けることが果たしてロシアの国益になるでしょうか。しかも、ロシアがISに対して『勝利宣言』してしまったことで、その後の政治プロセスもなんとなくロシアが牛耳っているという感覚があります。これは、ロシアがシリア介入した根拠である『主権尊重』という立場からすると、好ましくありません」
イタリアの軍事ニュースサイト「ディフェンス・オンライン」のアンドレア・クッコ編集長は、「ロシアが全てを行なえるとも思わないし、するべきではない。シリア人が政治的・軍事的に幕引きをするべきだし、まだ内戦に勝利したと言うことはできない。シリアはまだ分断されているのだから」と話す。青山氏もまた、将来を決めるのはシリア人であるべきだと考えている。
青山氏「ロシアやイランが支援してきた政治勢力がシリア内戦の『勝ち組』になったわけですから、それらの国が重要な意味を持つのは自然なことです。しかし今、国際社会の総意ではなく、ロシア、イラン、トルコという勝ち組国家によるアスタナ・プロセスの延長で事が進んでしまっています。このスタンスでは、決してそのプロセスを受け入れない人々が少なからずいるということを念頭に置いておかなければなりません。