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ヤマルLNGプロジェクトは、埋蔵量は多いものの、経済制裁により資金調達が頓挫したり、プロジェクトの途中で追加建設が必要になったりと、何度も実現が危ぶまれてきた。それだけに、今月8日に行なわれた初出荷の記念式典では、世界中の関係者が喜びを見せた。
LNG船は、世界中を見渡しても建造過程にあるものを含め約540隻しかない。その中で商船三井は、契約・発注済の船を合わせて95隻のLNG船を保有する、世界最大のLNG船オペレーターだ。LNG船は船体構造が複雑で高い輸送技術が求められるため、価格も高い。通常の貨物船と違って、特定のプロジェクトのために建造され、利用されるのが一般的だ。
新船「ウラジーミル・ルサノフ」は、北極海の厳しい環境を考慮し、あらゆる点で特別仕様になっている。マイナス52度の気温にも耐え、アイスレーダーで氷の位置を認識し、氷を砕きながら航行することができる。砕氷能力のレベルは、一般商船としては最高レベルの「ロシア船級ARC7」だ。鉄板の厚み、フレームの多さ、塗装に至るまで通常船の倍以上の装備をもち、前進だけでなく後退もできる非常に画期的な「ダブル・アクティング」という機能を備えている。
夏季(7月~11月中旬)はベーリング海に抜ける北極海航路、冬季(11月下旬~6月)はスエズ運河航路を使い輸送する。北極海航路を使えば大幅な航海日数短縮、3割もの燃料節約、海賊が頻発する地帯を避けられるなど多くのメリットがある。
また、北極海に面する場所には町がほとんどないので、何らかの事情で航行できなくなってしまった場合、救助隊の到着に時間がかかるのではという懸念もある。北極海航路は過酷な自然環境との戦いであり、どれだけルートを確立し、安定的に輸送できるかが今後の鍵となりそうだ。
「ウラジーミル・ルサノフ」は、近日中にカラ海でアイストライアルと呼ばれる砕氷性能試験を経て、来年3月末にヤマル半島のサベッタ港に初入港する予定だ。