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第一に、MDシステム問題へのロシア政府の一般的なアプローチを思い出すのが適切だろう。そのアプローチをちょうど50年前の1968年7月2日、ソ連の水爆の父であるアンドレイ・サハロフ氏が米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿。サハロフ氏は当時すでにソビエトのシステムに断固たる批判を浴びせるソ連反体制派の思想的リーダーとなっていた。これは後に、ノーベル平和賞の受賞に至る。だが、こうした思想的立場は、軍事戦略問題の解決に携わった研究者としての、MDシステムの本質の分析に対する極めて客観的なアプローチを妨げなかった。サハロフ氏はこう書く。
つまり核大国が最初に攻撃を加えつつ、反撃はMDシステムで撃退することを見込む図式。これをサハロフ氏は懸念していた。
攻撃的戦略のいち要素としてのMDシステムというこの論理に、現代のロシアも依拠している。陸上配備型イージスないし海上のイージス艦による梯型世界MDシステムの創設を進める米国の政策に、ロシアは強く反発している。イージスアショアは欧州、日本、韓国、太平洋の諸島、米国内の配備を予定する。イージス艦はまた、弾道ミサイルを搭載したロシア潜水艦の展開地域にMDシステムを近づけることができる。こうした潜水艦は常に、隠密性から反撃手段として考慮されてきた。
当然、MDシステムがロシアや北朝鮮に向けられているとの主張を米国は否定する。だが説得力は弱い。
欧州でのMDシステム配備を米は、イランによる核ミサイルの脅威で正当化。だが、イラン核合意のあと、こうした論拠は宙吊りになった。しかしポーランドやルーマニアでの配備は続いている。同様のことが日本を始めとする極東で起きている。
日本への北朝鮮のミサイルの脅威は非常に具体的だ。だが、日本のMDシステム構造は、米が展開する世界MDシステム配置図に完全に適合するだけでなく、ロシアへの新たな脅威でもある。
本州の北部と南西部にイージスアショアを配備することで、迎撃ミサイル「SM3」は計48発となる。こうして、高高度・遠距離の弾道ミサイルや巡航ミサイルの迎撃が可能になる。
さらに、海上自衛隊はこんごう型護衛艦にイージスシステムを搭載。同艦はかなり前に、日米軍事演習でテスト済み。同演習はミサイル迎撃艦の効果性を確認するため、太平洋で定期的に実施されている。また、「あたご」「あじがら」にもイージスシステムを搭載。日本が保有するイージス艦は計4隻となる。
日米は昨年2月と6月、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)を用いた弾道ミサイル迎撃合同演習を行った。
一方で河野太郎外相は、イージスアショアが日本の防衛のみが目的で、日本のみが操作すると発表している。だが上記の状況から、ロシア軍部を安心させる事はできない。
集団的自衛権の枠組みの中で、日本はすでに、必要ならば米国を守る作業に着手している
「今日私たちは、日本は必要があれば、自国領のみならず、米国領や他のパートナーの領域を守る能力があることを、確認します。」
ロシアが反対する第3の理由は、リャブコフ外務次官が以前述べたように、これは両用システムだからだ。つまり、将来的にイージスアショアは迎撃ミサイルだけでなく、攻撃用の巡航ミサイルも発射する可能性がある。巡航ミサイルは、1987年に締結した中距離核戦力全廃条約で、ロシアと米国が陸上に配備することを禁じられている。
実は、このシステムは汎用ミサイル発射機「Mk41」からの「デュアルユース」複合体。Mk41は迎撃ミサイルだけでなく、核弾頭型を含む地上発射型攻撃用巡航ミサイルを発射できる。
つまり、これは、アジア太平洋地域での世界的MDシステムの本格的なセグメント設置に向けた更なる一歩であるだけではない。日本が質的に新たな攻撃能力を有するリスクをも意味することになる。