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第二次世界大戦の歴史と日露関係に詳しい歴史学者のアナトーリー・コーシキン氏は、もしかすると天皇の権限は今後拡大するのではないかと考えている。
「日本の右派勢力は、天皇を単に国民の象徴とみなすだけではなく、権利、特権を復活させたいと考えている。右派は、それは国民団結の助けになると考えている。新天皇の即位にともなって、そういった試みがなされるかもしれない。日本国憲法の根幹の関わることだけに、これがどれだけ現実的かについて述べるのは難しい。しかし、安倍首相は憲法改正に賛成しているわけなので、何が起きても不思議ではない」
文化学者でロシア国立人文大学・現代東洋学科で教鞭をとるアレクサンドラ・ブルィキナ氏は、日本における新時代の到来は、何か大きな転換を社会にもたらすかもしれないと予想する。
「新天皇の育ちや振る舞いから考えれば、何か新しい超改革的なことを自ら率先して行なうということはないだろう。しかし新時代の到来それ自体が、憲法改正に適した背景となることはあり得る。戦後、日本の文化はすべて、私たちは平和国家であるというテージスに基づいて築かれてきた。しかし今、日本は世界とアジア地域の状況変化に対応せざるを得ない状態になっている。安倍首相が強い軍隊を復活させたいと試みていることは明らかだし、すでに憲法9条に矛盾している法が成立している。そして国民もそれに対する準備ができている。以前なら街に出て抗議活動していたところ、今では折り合いをつけたようだ」
ロシア科学アカデミー極東研究所日本研究センター上級研究員のヴィクトル・クジミンコフ氏も、新時代到来による社会の変化を予想する。
「もし昭和天皇からイメージされるものが第二次世界大戦だったとすれば、今の天皇陛下は、それとは違う。今上陛下は、戦争で受けた傷を癒し、日本人の心にも、かつて敵対していた国の国民の心にも、平和と静寂をもたらすために、やれることを全てやってきた。サイパン、パラオ、フィリピンなど、先の大戦で大量の血が流された場所を幾度となく訪問し、犠牲となった全ての人のために祈りを捧げてきた。明仁天皇は平和のための戦いのシンボルだ。今、時代は変わっている。新しい天皇とともに新時代がやってくる。このことは、日本社会に新しい思想、アイデアをもたらす契機となるかもしれない」
法政大学の下斗米信夫教授は、スプートニクの「新時代の天皇の役割は拡大すると思うか」との問いに、日本憲法上の天皇の役割は日本国憲法上も決まっており、象徴としての役割がそれほど変わることはないだろう、と話している。
しかし、健康上の理由を挙げて天皇の座を譲り、憲法にも書いていない方法で代替わりが実現するというのは、やはり注目に値する。昭和天皇はかつて神格を放棄する人間宣言を行なったが、今回の今上天皇退位へのプロセスは、下斗米氏いわく「第二の人間宣言」とでも言うべきものだ。
「元天皇と現天皇が両方いるという、そういう時代に変わるわけで、この点は、非常に意味があると思う。昭和天皇の時代は、前半は戦争、後半は経済成長という形で、国民の受け止め方が一様ではなかった。国際関係でも、旧植民地・アジア諸国からは、昭和天皇個人に対する批判が、ないわけではなかった。その点で今の天皇陛下は、国民和解、アジア諸国との和解に取り組み、沖縄訪問などを繰り返してきた。そして、平成の間には戦争はなかったものの、福島原発の危機や地震など、色々な災害が続いた。国民が、普通の人々が苦しんでいる時に、寄り添って同情する、これが本来の天皇の役割だ。その意味で明治・大正・昭和前半というのは、天皇が大元帥を務めていた異常な時代だったと言える。それより前の江戸時代以前の天皇は、詩を書いたり、文学を愛したり、普通の市民と交わったり、病院を訪問したりしていた。今、天皇の役割はそこに戻ったと言える。新天皇も、今の明仁天皇のように、国民とともに歩むというスタイルをとるだろう」
天皇陛下の代替わりは、改元を意味する。有識者会議は政府に対し、一定の条件を満たした候補案を5つ以内で示すことになっている。その間、日本社会は、1989年1月8日から始まった、去り行く平成に別れを告げている。例えばツイッターは、「ありがとう平成!」というハッシュタグであふれている。平成をテーマにした商品や、「ありがとう平成」と書かれたグッズ、アルコール飲料やお饅頭、スカーフやクリアファイルといったものが人気を集めている。
ありがとう平成まんじゅう。 pic.twitter.com/9Cy3X9DCGL
— しらけん (@siraken2go) 13 марта 2019 г.
スーパーにありがとう平成シリーズでてた pic.twitter.com/Gya5rFr7hi
— 金色の王国民 (@satou55takasi) 13 марта 2019 г.
この30年間の平成の間、その名称にふさわしく、現代日本は、つまり明治維新を迎えて以後初めて、どこの国とも戦争しなかった。しかし朝日新聞が2018年3月から4月にかけて行なった平成の時代認識に関する世論調査では、42パーセントが平成を「動揺した時代」だと回答した。また、読売新聞社が今月12日に発表した世論調査によれば、次の時代の日本が全体として「良い方向に進む」、または「どちらかといえば良い方向に進む」と回答した人が59パーセントとなり、「悪い方向に進む」の39パーセントを上回った。