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朝鮮半島情勢に詳しい拓殖大学客員教授の武貞秀士 氏は、「北朝鮮は多くのものを手に入れた」と指摘している。
武貞氏「今回の会談はロシアも北朝鮮もWin-Winのゲームで、両者が得たものは大きい。2015年にプーチン氏が金氏をロシアに招待したが実現せず、露朝首脳会談は4年間の間、懸案事項だった。長期に渡り準備してきて今回ようやく実現した。北朝鮮の随行団は230人と、非常に人数が多かった。それは露朝間の経済協力分野で、協議する事項が多かったからだと思う。
北朝鮮にとって2つ目のメリットは、中国に対してもロシアカードを手に入れたことだ。明日から『一帯一路』国際会議が中国で行われ、プーチン氏も出席する。プーチン氏と習近平氏は北朝鮮での資源開発や投資で競争してきた。露朝が経済協力について具体的に話し合ったことで、中国としても『うかうかしていられない』と感じるだろう。ロシアと北朝鮮が親密になることで、北朝鮮進出をめぐる露中間の競争が激しくなるだろう。その意味でも今回の会談によって、北朝鮮は中国に対して『もっと投資や経済協力をしてほしい』というメッセージを送ることができた。
この手法は、中国とソ連、あるいは中国とロシアを競争させて、最大の経済援助を得てきた金日成時代の外交と全く同じだ。プーチン氏と金氏は制裁緩和及び、経済協力、投資、鉄道、道路建設、天然ガスパイプラインなどについて話し合ったはずだ。それは、露中を競争させたい金氏の計算だ。」
蜜月関係を演出した今回の露朝会談によって、韓国は更に難しい立場に立たされた。
武貞氏は、日本もできるだけ早く日朝首脳会談を開催すべきだと指摘する。
武貞氏「プーチン氏は6カ国協議の復活を提唱しており、日本もそれに賛成の立場だ。二国間の首脳会談で言えば、北朝鮮と首脳会談をやっていないのは(6カ国協議参加国のうち)日本だけになった。日本は拉致、核、ミサイル、国交正常化という四つの分野で話をする必要があり、首脳会談の流れはできているのだから、早く開催すべきだ。安倍首相もこれを急ぐだろう。所信演説でも表明していたように、日朝首脳会談実現に向け、進めるタイミングが来ていると思う。」
当のロシアで露朝首脳会談はどう受け止められたのだろうか?以下、ロシアの朝鮮半島専門家たちの意見をご紹介しよう。
ロシア科学アカデミー極東研究所コリア研究センターのコンスタンチン・アスモロフ研究員
「今回の金氏の訪問が、米露関係にどんな影響を与えるか予想するのはまだ難しい。しかし一つだけ明らかなのは、1対1の会談が当初予定より2倍も長く行なわれたことだ。これは双方が会談のメリットを見出し、きちんとコンタクトが取れたことを示している。プーチン氏は記者会見で、金氏は自由にディスカッションしたと話している。両者とも、圧力のない状態での対話に好感を抱いたのだろう。」
ロシア科学アカデミー経済研究所コリアプログラムの責任者、ゲオルギー・トロラヤ氏
「今、ロシアは米国に対し、朝鮮半島の非核化により深くコミットすることについて建設的な姿勢を見せている。今回の首脳会談の重要な方針は、ベールに隠されているロシアの要求、つまりは米朝間対話の継続だ。もちろん北朝鮮にとって、将来的に自国の体制と主権が保障されることは非常に大事だ。ロシアは、この保障は、どこか一国だけから一方的に与えられるものではなくて、国際的に、法に基づいて与えられるものだと考えている。これにおいてロシアは段階的に制裁を解除する案に賛成だが、これはトランプ政権の方針とは相容れないものだ。」
ロシア科学アカデミー東洋研究所コリア・モンゴル部のアレクサンドル・ヴォロンツォフ副部長
「朝鮮半島における米露の思惑は一致しているが、両者のアプローチは全く違い、結果も出ていない。米国は以前と同様に制裁維持に賛成で、制裁こそが北朝鮮に対話を促せると考えている。ロシアと中国は、自分達は課題をすでにこなしたので、制裁の段階的な緩和に踏み切るべきだと考えている。朝鮮半島の状況はかなり健全になっている。北朝鮮はもう一年以上、核ミサイル実験を停止している。
ロシアにとって経済のアスペクトは政治のそれと同じくらい大事だ。対北朝鮮制裁は、ロシアにとって多くの経済プロジェクトがお蔵入りになることを意味する。その代表的なものが、韓国と北朝鮮、そしてシベリア鉄道をつなぐ鉄道インフラプロジェクトや、ロシアから韓国へのパイプライン建設だ。技術的にも経済的にも実現可能なのに、38度線で止まっているため、一向に実現しない。なぜなら米国主導の経済制裁と圧力によって、北朝鮮と韓国が経済協力を進めることができないからだ。ロシアは米国に対し、段階的な制裁緩和を進めるべき根拠について納得させようとしている。ロシアは、まさにこの方法こそが、朝鮮半島の非核化という共通の目標を実現する早道であると自信をもっているのだ。」