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谷口賢記さんは福島青年管弦楽団が4月にロンドンのクイーンエリザベスホールで行ったコンサートの指揮者の一人である。複数の権威あるコンクールで入賞している谷口さんは、さまざまなオーケストラと協力し、教鞭をとり、アルバムをリリースし、世界中でコンサートを行っている。若い頃には、京都大学大学院理学研究科にてミツバチの体内時計に関する研究を行い、修士課程を修了した。音楽にも科学にも関わったことがArts meet scienceプロジェクトを立ち上げるきっかけとなった。
スプートニク:子どもの頃はピアノをやっていらして、その後チェロに熱中され、今は指揮者をやっておられます。この3つをどのようにして両立させているのですか?
福島青年管弦楽団の楽団員は人生のターニングポイントになったと 語っていますが、この管弦楽団について教えてください。
谷口さん:福島の青年管弦楽団というのは、イギリスのNPO法人「Keys of change 」とギリシャ人のピアニスト、パノス・カラン が世界のあちこちで、子どもの社会性を高めようという活動をしているんですが、東日本大震災の直後、パノス・カランが単独で福島に入って、ピアノを通して被災した子どもたちとの交流をしました。それがきっかけで、3年くらいたってから、福島青年管弦楽団というオーケストラに発展した。青年管弦楽団の人々は福島、郡山の人々で、メンバーの中には、本当に津波でピアノがなくなってしまい、弦楽器を新しく始めた人もいます。直接ではなくても、福島というだけで、いろいろ乗り越えていかなければいけないものを背負っている。そういう人たちだからこそ、希望に向かって頑張っているんだということを世界に向けて発信できるというのが彼の考え方で、そういうコンセプトでやっています。すでに、ロンドンのクイーンエリザベスホールやボストン、ベトナム、東京のサントリーホール、オペラシティなど、あちこちで、海外公演をしています。今、5年ですが、来年も何かやろう、ということで、私もどういう形になるかわかりませんが、何か関わるつもりです。
スプートニク:Arts meet scienceプロジェクトはどのようなプロジェクトですか?
谷口さん:東京芸術大学のプラットフォームで今やっていますが、イメージとしては、1900年くらいのウィーンの街には「サロン」という場所があり、芸術家や留学生、医者などが気楽に集まって、世間話をする場所が存在していた。その当時のウィーンの文化レベルが飛躍的に上がった時代です。そういうイメージです。今の日本の社会では、良くも悪くもすごく細分化されてしまっています。サイエンス、メディカルなどは、他の芸術家に触れる機会がない。いろいろな見識を持つ幅広さが、これからすごく大事になってくる世の中なので、音楽家が医学を理解するのを目的としているのではなく、接点をつくることで、全然違うジャンルの、例えば、学生やプロフェッショナルなどのレベルで交流を持つことで、新しいエネルギーが生まれるのではないかと期待して始まった。自分が知らない分野に興味があったが、実際そういう人たちと話す機会がなかった人たちが、ものすごく盛り上がっています。
谷口さん:ロシアに行ったことがないのです。普段、チャイコフスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ボロディンなど、いろいろ演奏する機会はあります。曲を通して、強い精神力がありながら、どこかに温かさがあると感じます。ロシア音楽というくくりにはしたくないのですが、なんとなくそういう印象があります。食べ物、言葉、すべてを含めた文化の中で音楽はできているので、必ずその影響はある。演奏するときは、少しでも、そのエッセンスを知りたいということがあります。一番早いのは、ロシア人の方と一緒に演奏させていただいたり、ロシアに行ってその土地、文化を知ること。そうすることで自分がロシア音楽を演奏するときにも変わってくるのではないかと思う。これまでは、チャンスがなかったのですが、いつか機会があればと思います。