同事典の紹介は、「ロシアは日本の隣国だが、いまだに大いなる謎であり続けている。そして、その素顔はあまり知られていない。同書は、ロシアの多彩な側面を広く深く開設することを目指した研究者や実務家の共同作業による意欲作である」と強調する。
ロシア文化事典の書影、出てた。
— いけやん ИКЭЯН (@tyoroke0309) September 10, 2019
これは楽しみ過ぎる編集陣 pic.twitter.com/nGnBwVOP1Q
執筆メンバーには、東京大学の沼野充義教授、中央学院大学の望月哲男教授、東京大学の池田嘉郎准教授といった錚々たるスラブ研究者らが名を連ねている。池田嘉郎准教授は、ロシア社会でもっとも複雑で神経質な分野である「戦争」と「ロシア革命」、「レーニン」、「社会主義・共産主義」といったテーマを担当された。「スプートニク」のインタビューで池田嘉郎准教授は文化事典の作成エピソードについて語ってくれた。
スプートニク:文化事典の出版は誰のアイデアでしょうか。
池田嘉郎さん:もともと丸善出版という出版社が、「文化事典シリーズ」というシリーズを出してきたのです。イギリス、フランス、アメリカ、スペイン、イタリア、北欧、中国、インド、東南アジア、それに日本について、すでに刊行されています。ロシアの巻を出すことも、丸善出版の企画です。ただ、沼野充義先生も、おおいに助言したのではないかと思います。ロシアの順番が来るのがこんなに遅くなってしまったのは、ロシアについてのイメージが、出版社の側にあまりなかったのでしょう。また、ロシア研究の最新の知識を身に着けた新しい研究者の世代が出てくるまで時間がかかったことも、なかなか企画が具体化しなかった理由だと思います。
スプートニク:これだけ壮大な出版には長時間かかったのではないですか?執筆者の選択はどのように行われたのでしょう?
池田嘉郎さん:2017年初頭に準備が始まりました。
スプートニク:それぞれの項目で客観性は保たれたと思いますか?それとも主観的なアプローチは避けられなかったでしょうか?
池田嘉郎さん:私たちはできるだけ客観的な叙述を行なうことに努めましたし、それは成功しているはずです。もちろん、個々の筆者ごとの観点は大いに発揮してもらうことにしました。とくに文学など芸術関連の事項では、各研究者のセンスを重視しました。その上で、上記10人の編集メンバーが全ての原稿をチェックして、事実の間違いや、あまり説得的ではない解釈などは、直すように筆者に要請しました。
スプートニク:池田さんはこれまでもロシア社会で論議を呼ぶテーマを取り上げて こられましたが、そうした史実や人物へのご自分の見解と客観性の間でバランスをとることは難しくはなかったですか?
池田嘉郎さん:いずれも解釈が難しいテーマばかりなのですが、それだけに、ロシアの最新の信頼できる研究をできるだけ参照するようにしました。
スプートニク:ロシアに関する見解、問題でご自身が一番関心をもたれていること、まだ答えが見つかっていないということはなんでしょう?
池田嘉郎さん:私の専門は第一次世界大戦からロシア革命、内戦にかけてのロシア政治史です。ロシア革命の100周年である2017年には、『ロシア革命 破局の8か月』という本を出しました。1917年の革命を、もっぱら政治・社会秩序の崩壊に焦点を当てて論じたものです。その際、誰かが「悪かった」という説明をせず、当時のロシア帝国には、諸社会勢力の利害や見解を調整するような制度が弱体であったという説明を行ないました。英語とロシア語でも論文を書いています。私がまだ答えを見出していない問題は、1906年に成立したロシアの立憲体制は、どの程度まで発展と安定の可能性をもっていたのかということです。この点について、今後さらに検討を進めたいと考えています。
スプートニク:ご自身のフェイスブックのコメントに、文化事典は「ロシアに関する私たちの理解を深めるのに役立つ」 と書いておられますが、日本の、 特に若者の間にロシアへの関心はみられますか。ロシアは、 日本人にとって興味深く、 魅力的な国となるために何をすべきでしょうか?
池田嘉郎さん:若い人の間ではロシアへの関心は高いと思います。その一つの理由は、ロシア人、とくにロシアの若い人たちが、日本文化に強い関心をもっていることが、徐々に日本でも知られるようになったことが挙げられます。その結果、私たちはお互いに仲良くなれるのではないかという見方が、若い人の間では自然なものになってきたのです。また、現在は多様性が大事にされる時代ですが、アメリカ文化とは違う独自の文化という意味でも、ロシアの存在感は大きくなっています。文学、音楽、演劇、映画、あるいはまたアニメーションなど、様々な文化の分野にこそ、ロシアと日本がお互いに交流を深めるための、一番の可能性があると私は思います。こうした文化・芸術の分野での相互交流に、より多くの力を割くことが大事でしょう。