エテリ・トゥトゥベリーゼ氏は今季、綺羅星の選手らをシニアに送り出した。その1人、アリョーナ・コストルナヤ選手は初日のSPで世界最高得点をたたき出し、大いに会場を沸かせた。SP終了後のミックスゾーンで各国の記者がわっとコストルナヤを取り囲む中、五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワ選手がまさかの4位という成績に茫然とした状態で現れた。しかし、コストルナヤの姿を認めるや否や、ザギトワはすぐさま踵を返した。その後、改めてミックスゾーンに招かれたザギトワ。凍りついた表情に記者団は言葉を失い、質問も俄然慎重になった。ザギトワ選手は声を絞り出すように答えていた。
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共同記者会見会場は少し離れた場所にある。付き添いもなく、ひとり会場に向かっていたザギトワの足がふと、止まった。寒空の暗い並木道でザギトワはスマホでメッセージを打っていた。相手は誰だったのだろうか。道端にたちつくす世界女王に声をかける人はいなかった。
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会見の質問は日本の紀平梨花選手に集中。内容はコストルナヤに勝つために必要なフリーのプログラム内容に終始した。一方、コストルナヤには世界最高得点を記録したにもかかわらず質問がこない。
SP、FSの総合で世界記録に迫ったコストルナヤ選手は常に笑顔だった。表彰台に上り、トリコロールカラーの旗を見つめながら国歌を斉唱する彼女の表情が会場のスクリーンに大きく映し出された。フランスと日本で熾烈な戦いを制した少女の素顔から涙が零れ落ちた瞬間だった。
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ロシアの男子シングルは第5戦のロステレコム杯で銅メダルを手にした若手のマカール・イグナトフ選手に注目が集まっていたが、ジャンプでミスが目立ち、前半を5位で折り返した。そして誰が予想していただろうか、SPでボロノフ選手が自己ベストに迫る88.63の高得点をたたき出したのだ。予想しない展開にミックスゾーンはざわついた。
シニアのキャリアが10年を超えたボロノフ。トップでSPを滑り終え、最初に挨拶した羽生選手の言葉を引きながら、「明日は新しい一日が始まる。新しい気持ちでフリーを滑りたい」とコメントした。さらに、スプートニクからの質問に「ロシアでも指導を受けてみたい」羽生が答えると、ボロノフは「You' re welcome」。2人の顔には微笑みがこぼれた。
Sergei VORONOV - SP - 2019 Finlandia Trophy - Сергей Воронов - セルゲイ・ヴォロノ... https://t.co/pAQ9JBcYrK @YouTubeより
— でらいら🧚♀️🦁🦀🦁🧚♀️諸君私はQueenが好きだ (@liverandleek) November 24, 2019
リンクに響き渡るコーラスが美しく、フレディの伸びやかな歌声とリズムに沿うようなステップワークも観てて心地よい。3Aはしくじってたけど、そこも歌詞に嵌ってるのよね
翌日のフリーでボロノフはジャンプのミスが目立ち、惜しくも表彰台を逃した。長いキャリアの中ではこんなシーンをいくつも乗り越えてきたのだろうか。薄暗い廊下の片隅で記者からの質問を受けることとなったボロノフが、感情的な言葉を一切排し、「僕はもう人として成熟しているから」とコメントしたのが印象的だった。SPの演技で落胆したザギトワとは違い、その目に動揺の色はなく、「昨日のショートでは自分に勝って、今日は負けた」とNHK杯を締めくくった。
選手らが泊まるホテルには、羽生ファンが人垣となって出待ちしていた。そのロビーを通り抜けながら部屋に戻ったボロノフは何を思ったのだろう。クイーンの旋律で王者に返り咲く姿を見たいと思ったのは筆者だけではないはずだ。