商社マンがROBBO JAPAN のCBDOになるまで
大学卒業後、大手商社に入社した二宮さんは、ソ連に工作機械を輸出する仕事からキャリアをスタートさせた。しかしソ連のアフガニスタン侵攻で長期にわたり日ソ関係が冷え込み、韓国相手のビジネスを手がけるようになる。
その後はアゼルバイジャンでエネルギービジネスを手がけたり、ソ連崩壊後にロシアマーケットのポテンシャルに気付いた日系メーカーの販路開拓を担うなど、旧ソ連圏をベースに幅広い商材を扱った。
2005年、豊田通商の駐在員としてポーランドにいた二宮さんのもとに、思いがけない話が舞い込んできた。トヨタ自動車がサンクトペテルブルクにロシア初の生産工場を建設するというのである。二宮さんはこの準備のためロシアへ飛び、サンクトペテルブルクに現地法人を立ち上げた。
その後1年半以上にわたり、各種の許認可から工場の機械の据え付けまで、あらゆる仕事をこなした。今でこそロシアも企業誘致に積極的になり、許認可がワンストップでできるなど利便性が向上しているが、当時は全く環境が整備されていなかった。妥協のない会社として知られるトヨタと、無理難題をつきつけてくるロシア当局の間で様々な困難があったが、工場は予定通り2007年12月に稼動を開始した。
工場オープンの翌年に帰国した二宮さんは、ロシアにおける新ビジネスの立ち上げ等に携わった後、独立して自身の会社を設立した。そんなとき、IT・エレクトロニクスの国際展示会「CEATEC 2019」のため来日したROBBOの創業者、パーヴェル・フローロフさんと出会い、日本での展開に協力することを決めた。ROBBOは福岡市が今年5月に開催したピッチコンテストで優勝しており、すでにロシアのスタートアップの中では注目の存在だった。
プログラミング教育義務化:ROBBOのビジネスは時代の要請
ROBBOの事業は大きく分けて2種類ある。小中学校などの教育機関にロボット教育プログラムを提供する「ロボクラス」と、塾のように、学外でロボット工学やプログラミングを学べる「ロボクラブ」のフランチャイズ事業だ。ROBBOはフィンランドにグローバル展開の拠点を置き、すでにドイツやイタリア、英国といったヨーロッパの国々や米国に進出している。
ROBBOが開発したロボット製作キットは、5~7歳、8~10歳、11~15歳以上向けと、3つの対象年齢に分かれている。競合他社に比べてロボットの機能が複雑で、段階的に応用することができるため、工夫を重ねて飽きずに楽しめるのが大きな特徴だ。
日本語版の教材も準備したが、もともとROBBOの教材は非常に簡単な英語で作られているため、小さな子どもにはむしろ英語の方が感覚的にわかりやすい。「ロボクラブ開講の際には、日本に住んでいる外国人に、英語で指導してもらうようにしたい」と話す二宮さん。
日本では、2020 年度から小学校におけるプログラミング教育義務化が始まる。
教育現場では、プログラミング経験のない教師が、どうやってプログラミング教育を行なうのか?という問題が生じているが、ROBBOが取り入れている「フィンランド式教育」により、その問題はクリアできる。
教師用のテキストを含むROBBOの教育システムは細部に至るまで入念に作りこまれており、教師は基本的に、それにのっとって授業を進めるだけでよい。教案作成などの余計な負担がかからない仕組みになっているのである。2020年度の採用タイミングには間に合わなかったものの、二宮さんは「我々の製品の良さが伝われば、遡及できるでしょう」と自信を見せる。
長年にわたり、日本の製品や技術をロシアに伝える仕事をしてきた二宮さん。この仕事にめぐり合い、ロシアの製品を日本に伝える立場に変わったことは「非常に面白い」と話している。
「先日、サンクトペテルブルクでロボクラブを視察しました。とてもわかりやすく、みんな喜んでやっていました。私が教室へ入っていくと、子どもたちが目を輝かせながら、『これ僕が作ったんだよ!』と見せてくれるんです。それで私は、『そう、最後はこういう仕事につきたかったんだ』と思いました。」
現在はROBBO JAPANの拠点である福岡と東京で、ロボクラブのオープンに向けて準備が進んでおり、近い将来には他都市へのフランチャイズ展開を狙う。また、教育機関でのロボクラス採用に向けても働きかけていく。目標は今後5年間で、ロボクラスとロボクラブ、合計500か所にまで拡大することだ。理系離れが叫ばれて久しいが、IT先進国ロシアの創意工夫にあふれるロボット教育に触れた子どもたちが、日本のテクノロジーの未来を変えるかもしれない。