喫煙が新型コロナウイルスへの感染に影響するかどうかについては、さまざまな資料が存在する。例えば、世界保健機関(WHO)の緊急疾病対策部長のマリア・ヴァン・ケルクホーフェ氏は、喫煙が新型コロナの重症化を引き起こすと述べている。
一方、フランスのパスツール研究所は4月下旬、新型コロナウイルスの感染者における喫煙者の割合は低いと発表している。
タンパク質ACE2とは何か?
ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)は遺伝情報を受信し、伝達のプロセスを調節するタンパク質。新型コロナウイルスはこのタンパク質を利用してヒトの細胞に侵入する。ヒトの肺はACE2の主要な生産拠点の一つ。そして、タバコの煙がヒトのACE2の発現を刺激する。この一連のパターンに、コールド・スプリング・ハーバー研究所(米ニューヨーク州ハンティントン)の研究者らが注目した。
この研究を率いたガン遺伝学の専門家、ジェイソン・シェルター氏は「我々の研究結果は、新型コロナウイルスを発症した喫煙者の病状が悪化する傾向にある根拠を示している」と述べている。
同氏は研究論文のプレスリリースで「(研究を行うにあたって)見つけられる限りのデータを集めた。集めたデータを全て分析してみると、実験室でタバコの煙を吸ったマウスも、そして喫煙者もACE2の活性化が著しいことが分かった」と述べている。
そこで研究者らは、喫煙が肺のACE2発現に及ぼす直接的な影響を評価するために、喫煙者と非喫煙者の肺の上皮組織のACE2遺伝子の発現を比較した。
その結果、喫煙がACE2の発現を著しく増加させていることが明らかになった。喫煙者の肺は、非喫煙者に比べてACE2の発現量が30~55%多く、ヘビースモーカーでは発現量が最大値を示した。なお、肺のACE2レベルに年齢や性別が影響しているという兆候はなかった。
またこの研究では、インフルエンザなどの他のウイルス感染症や、炎症性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症などでもACE2の発現が増加することが示されている。
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